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松江哲明の経済ドキュメンタリー・サブカル・ウォッチ!【第34夜】

華原朋美、「今、クスリ入ってないですか?」との質問への答えから透ける“強さ”

華原朋美、「今、クスリ入ってないですか?」との質問への答えから透ける“強さ”の画像1『夢やぶれて-I DREAMED A DREAM-』(ユニバーサルJ)
 ドキュメンタリー番組を日々ウォッチし続けている映画監督・松江哲明氏が、ドキュメンタリー作家の視点で“裏読み”レビューします。

【今回の番組】
 8月18日放送『情熱大陸~華原朋美』(TBS系)

 泣いた。華原朋美の歌声に涙腺が刺激されて仕方なかった。その思いは会場に集まるファンも同じらしく、次々と彼女に握手を求める。その姿の多くが同世代であることが、どこかうれしい。

 あの頃のカラオケでは皆、華原朋美を歌っていた。僕は彼女のCDを買ったことはないけど、ソラでも歌える。街には彼女の歌があふれていたし、彼女のスタイルを真似る女性を揶揄した「カハラー」という言葉も覚えている。渋谷の風景と共に思い出される、90年代を象徴する歌手であることは間違いない。

 その後は、週刊誌や中吊り広告のネガティブな印象が強くなってきた。テレビでも、朦朧とする姿が映っていたことを覚えている。残酷だった。でもCD一枚持っていない僕は、消費者にすらなれていない。そのうち、彼女の歌も聞こえなくなった。

 復帰のことは知っていたが、ここまで圧倒的だとは思わなかった。番組の中でも紹介されていたが、デビュー当時とは声が違う。音符さえ読めない僕なので、番組のナレーションをそのまま記すと「以前の声は硬く、鋭い」が、今は「伸びやかで、ゆとりさえある」。彼女はいかにして、この声を手にしたのだろうか。

 しかし、番組の視点は厳しい。否、意地悪すぎないか、とさえ思った。スーパーで買い物をしている時、賞味期限が迫った値引き品を手にし「こういうのにも興味がありますよ」と笑えば、「味わってしまった天国と地獄」とナレーションが続く。さらに「一番小さな部屋で、2時間1575円」の小さなスタジオに入っても「アマチュアが利用する」ことを強調する。きっと第一線で活躍していた頃と、今との状況の差を強調したい演出だと思うが、さすがに次の言葉には驚かされた。

 華原が「街を歩いていても、あの子クスリの子よね、って指をさされることもあったし」と過去の経験を告白すると、ディレクターが即座に「今、クスリ入ってないですか?」と詰問したのだ。僕には耳を疑うようなキツイ言葉だったが、彼女は「大丈夫ですよ」と笑い、その場を和ませていた。ディレクター自身も笑っていたが、人によっては怒らせてしまっても仕方のない言葉だと思う。もしかしたら制作者たちにとっては、取材を始めてから、ある程度の期間を経て、新しい関係性になれたきっかけとなる出来事だったのかもしれないが、番組を見ている僕には冗談として笑える準備はできていなかった。とはいえ、今ではそんな言葉も笑って済ませられる華原の強さが、そこには映っていた。

 「販促イベントのチラシは、コピーで作ったチラシだった」と寂しい紹介をされた握手会だが、会場には大勢の観客が押し寄せていた。一人ひとり、両手で握手をし、目を見て「ありがとう」と伝える。この雰囲気と視点を文章で表現できないことがもどかしいが“神対応”という言葉を想像してほしい。ここに集まったそれぞれが「これまで」の華原朋美を知っているからこそ、今ここにいる彼女に感動している光景だった。

華原朋美の覚悟

 歌手が「皆さんに食べていただきたかったんです」とスタッフ一人ひとりに明太子鍋を取り分ける姿にピアノ曲を重ね、「かいがいしく見える」とまとめてしまう演出にも、僕は疑問を持った。さらに「39歳、独身。寂しい夜だってあるだろう」と続くのには、「えぇぇ!」と今回3度目の声を出してしまった。どうしてこう「わかりやすい」視点にまとめてしまうのか。『39歳の再出発』とは、そういうことではないでしょう、と僕は憤りを覚えた。しかし華原は「芸能界の人ってあまり得意じゃないんですよ、あれ以来」と自ら笑い話に変え、その場を和ませる。きっと彼女は、これまで何度もこういう経験をしたし、これからもするのだろう。時代を象徴し、一度は表舞台から消え、復帰に挑む歌手は、確実に何かをあきらめている。それこそ強さなのかもしれないが、代わりに手にしたのが今の歌声なんだと思いたい。

 「自分に勝ちたかったんですよ、一回でいいから」

 というインタビューが、池袋サンシャイン噴水広場で行われたライブの合間に挿入される。正直、この言葉は、これまでの強引なまとめ方もなく、唐突な印象さえ受ける。でも華原の覚悟が伝わる言葉だった。

 「整理整頓し切れない、隙間を残す」という先輩ドキュメンタリー監督の言葉を思い出した。文字起こしされた文面や流暢なナレーションに頼れない、でもカットできない被写体の強度が映っていた。僕は、こんな絞り出されたかのような映像をもっと見たかったが、歌手から言葉を引き出すのは、本当に難しい。なぜなら彼ら、彼女らが心を表現するのは、歌っている瞬間だからだ。その証拠に、今回、最も華原が輝いていたのは、観客一人ひとりの顔が見えるステージの上で歌う時だった。

 華原の歌声を聞く観客も、彼女自身も圧倒的な表情だった。歌の力を浴びた。
(文=松江哲明/映画監督)

●松江哲明(まつえ・てつあき)
1977年、東京都生まれ。映画監督。99年に在日コリアンである自身の家族を撮った『あんにょんキムチ』でデビュー。ほかの作品に『童貞。 をプロデュース』(07年)、『あんにょん由美香』(09年)など。また『ライブテープ』(09)は、第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で作品賞。

BusinessJournal編集部

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