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東電の誤算、遠のく経営再建の裏側〜原発再稼働めぐり反発呼ぶ姿勢、高まる資金繰り懸念

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東電の誤算、遠のく経営再建の裏側〜原発再稼働めぐり反発呼ぶ姿勢、高まる資金繰り懸念の画像1東京電力本社(「Wikipedia」より)
 東京電力が原子力損害賠償支援機構と共同で策定し、昨年5月に国の認定を受けて発表した経営再建計画「総合特別事業計画」が1年少しで暗礁に乗り上げ、にっちもさっちもゆかない状態になっている。同計画は発表直後から、各方面から「現実離れしたお花畑計画」と揶揄されていたが、揶揄が現実化した格好だ。

 今年4月1日、東電の廣瀬直己社長は13年度事業運営方針の発表会で「黒字化のためには、あらゆる手段を尽くす」と強調、14年3月期の赤字脱却(13年3月期まで2期連続の最終赤字)に不退転の決意を示していた。だが、今年7月1日の14年第1四半期連結決算発表会で、この決意の言葉に早くも暗雲が立ち込めた。

 同決算の売上高は前年同期比9.8%増の1兆4377億円、経常損益は295億円の赤字、最終損益は4379億円の黒字だった。売上増は昨年9月1日の電気料金値上げによるもの。経常赤字は火力発電の燃料費増加によるもの。最終損益こそ黒字を確保したが、これは原子力損害賠償支援機構から交付された約6600億円を特別損益に計上した結果で、実態は約2200億円の赤字だった。経営状態が改善したわけではない。

 それどころか、経営はこの1年でさらに悪化しているようだ。

●経営再建を阻む、燃料費増加

 エネルギー業界担当の証券アナリストは、「14年第1四半期の経常損益赤字は、燃料費増加が最大の要因」と次のように分析して見せる。第1四半期の主な経常費用を見ると、人件費と修繕費は過去最低なので、計画通りコスト削減を進めている様子が見て取れる。だが、人件費の約8倍に及ぶ燃料費は削減が進むどころか増加し、前年同期比1.9%増の6363億円となっている。

 燃料費の増加に対して、同社は手をこまねいていたわけではない。まず、東北電力からの電力購入を増やして350億円を削減。次に安価な石炭を燃料とする広野火力発電所の運転などにより、合計1000億円以上の燃料費削減をしている。

 ところが、円安による燃料価格の上昇が、これらの削減努力を無にしてしまった。その費用増加分は1120億円で、削減額を上回ってしまったのだ。燃料費の増加を抑えられないのは、原発の運転停止により、燃料の大半を化石燃料に依存せざるを得ないからだ。

 同社は昨年9月の電気料金値上げ申請に当たり、今年4月から柏崎刈羽原発4基の運転再開を前提に事業計画を立てていた。しかし刈羽原発再稼働の見通しがいまだ立たず、火力発電所のフル稼働が続いている。火力発電依拠が続く限り、経常費用の半分近くを占める燃料費がネックとなり、黒字化は不可能に近い。つまり、同社の経営再建は、原発再稼働が成否のカギを握っているのだ。

●自ら潰した経営再建の切り札

 それは今年7月5日、夕刻のことだった。新潟県庁の知事応接室で、泉田裕彦知事は「地元の意向も聞かず刈羽原発の再稼働を決めたのはなぜか」、東京電力は新潟県と結んでいる協定を本当に守る気持ちはあるのか」など、日頃の疑念を次々と舌鋒鋭く廣瀬社長にただしていた。これに対して廣瀬社長は、言質を取られまいとしたのか、終始曖昧な「官僚答弁」を繰り返すばかりだった。

 この不誠実な態度に堪忍袋の緒を切らせた泉田知事は、ついに「あなたは話し合いに来たのか、それともごまかしに来たのか。これほど話がかみ合わないのだったら、これ以上話し合っても意味がない。どうぞお引き取りください」と言い放ち、会談を打ち切った。 

 廣瀬社長の泉田知事訪問は、原子力規制委員会に対する刈羽原発再稼働の安全審査申請に絡むものだった。刈羽原発再稼働に関して、東電は当初、社内の「原子力改革監視委員会」(取締役会の諮問機関)の委員に起用した著名経営コンサルタントの大前研一氏から刈羽原発の安全対策についてのレクチャーを受け、それを基に泉田知事の了解を得て原子力規制委員会へ再稼働の安全審査申請をするシナリオを書いていた。そして東電は「いつものごとく、札束をちらつかせれば泉田知事はシナリオ通り踊ると踏んでいた」(電力業界関係者)という。

 ところが泉田知事は、シナリオ外の動きに出た。泉田知事は刈羽原発再稼働について、6月下旬の毎日新聞のインタビューで「福島原発事故の究明と事故再発防止が先決」と述べ、「(原子力規制委員会の)安全基準では、県民の安全を確保できない」と安全基準自体への不信感をあらわに示していた。それにもかかわらず廣瀬社長は7月2日の記者会見で、「早期に安全審査を申請する」と表明、泉田知事の不信感を一顧だにしなかった。

 要するに、刈羽原発再稼働は「当社が決めたシナリオ通りに粛々と進める」という態度だった。

 そんな状況を自らつくり、7月5日に新潟県庁に乗り込んできた廣瀬社長を、泉田知事が歓迎するわけがなかった。この失態により、刈羽原発再稼働は、地元自治体の協力を得るにはかなり厳しい状況に追いやられた。今月26日に同県は、柏崎刈羽原発6、7号機の再稼働に必要な原子力規制委員会への安全審査申請を、条件付きで容認する方針を決めた。しかし、東電が同県との信頼関係を悪化させてしまった今、再稼働に向けては依然予断を許さない状況が続く。廣瀬社長は経営再建の切り札を、自らの手で握り潰したといえる。東電関係者は「霞が関以上に官僚的な会社で育ってきた、生え抜き社長の硬直した思考回路から出たサビと言うしかない」と、うんざりした様子だ。

●深刻な人材流出

 経営再建の座礁は、こうした燃料費問題だけではない。

 証券アナリストは「経営再建計画に盛り込んだ再建策で、計画通り進んでいるのは人件費削減、修繕費削減、資産売却などのリストラと、電気料金値上げだけ。しかも、リストラはボディブローのように東電の経営体力を弱めている」と指摘する。人件費削減は人材流出を加速し、修繕費削減は設備の老朽化を早め、「電力供給の品質」低下を招こうとしている。

BusinessJournal編集部

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