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鈴木謙介さんインタビュー

仕事と私生活の境目が曖昧になる……ウェブ社会で誰もが直面する煩悶への立ち向かい方

【この記事のキーワード】

–会社などの組織にとっては、ああしたトラブルは頭が痛いですよね。どんな対策が考えられるでしょうか。 

鈴木 対応策は大きく3つあります。1つ目は、友達内のロジックより、組織のロジックが優先するように、会社の理念を含めて教育していく方法。2つ目は従業員の役割を明確にガイドライン化して、その中で行動してもらう方法。最後は、こうした出来事は一定の確率で発生するリスクだと割り切って、解雇も含め、制度を設計する方法です。いずれにしても、情報は漏れる、現実は<多孔化>しているという前提をもって物事を考える必要が出てきています。

●空間の情報を上書きするアプローチ

–少し話が変わりますが、現実空間の特権性が失われたならば、逆に現実空間に特権的な意味づけをすることが価値になって、ビジネスになるということはありませんか?

鈴木 まさに、『ウェブ社会のゆくえ』の後半で論じたかった部分はそこなんです。特権化した場所を作る方法にも3つの方向性があると思っていて、1つ目はその場所にしかない歴史的な遺産を利用する方法。2つ目は「行きにくい場所」の特権性を利用する方法。つまり、離島や東京スカイツリーなど、縦横に広がる空間移動の困難さを解決することによって、特権的な場所にアクセスさせる方法です。ただ、この2つは、誰でも実行できるというものではないですね。そこで浮かび上がってくるのが、第3の方法である「情報や意味の上書き」というアプローチなんです。

–というと?

鈴木 具体的には、アニメの聖地巡礼や東京マラソンなどがそれを指します。ロックフェスやライブもそうかもしれません。ある空間が、旅行やイベントなどの参加者によって、それぞれの思いを引き受けながら、もとの場所とは違う意味を持つように仕向けていくわけです。ただ、気をつけなければいけないのは、「『あまちゃん』で町おこし」みたいなことをやってしまうこと。これは最悪です。

–一時のブームで終わってしまいそうですもんね。

鈴木 それもありますが、「虚構の現実化(バーチャルなものを実体化する)」というアプローチが、あまりいい手ではない。そうではなくて、むしろ「現実の虚構化(現実の中にあえてウソを持ち込む)」のほうがみんな参加できるし、高揚感を得やすい。僕は大学内でテレビ番組『逃走中』(フジテレビ)を模した鬼ごっこをやったことがあるんですが、そういった現実を虚構で塗り替えていく行為、つまらない日常を嘘でもいいから面白くするために努力していく行為に、たくさんの人が熱中するようになってきています。「虚構」だからこそ楽しいんです。鬼ごっこにしたって、初めは周りから「あの人たち何やってるんだろう?」と白い目で見られるんですが……。

–さっき、鈴木先生が全速力で走っていたけど、なんなんだろう? みたいな(笑)。

鈴木 でも、だんだんとその視線すら快感に思えてきて、「虚構に没頭している自分たち」を楽しめるようになります。現実の虚構化による空間の加工というアプローチは、ここ10年のトレンドになっていくでしょう。

–今後、<多孔化>した現実を生き抜くビジネスマンに、アドバイスをお願いします。

鈴木 ユーザーとサービス提供者、それから、社員の位置情報や健康情報などを管理しようとする勤め先とのせめぎ合いが、今後それぞれ激化すると思います。その中で、誰もが納得できるルール作りや法整備などを、社会全体のマクロな問題として進めていかなければならない流れになっていくでしょう。個々人の視点では、先ほども指摘した通り、「選択できる」ことを意識し、自分の軸足を決めることが大切になります。

 ただ、ソーシャルメディアの「ソーシャル」は、本来、コネなどを指す社会関係資本や社交の意味が含まれていることも忘れてはなりません。自分に対して意味ある反応を相手から引き出して人脈を広げていくのが社交界なんですが、日本ではTwitterで話題になった「繊細チンピラ」という言葉もあるように、同質性を確認するためのツールとして使われてしまっている。社宅の井戸端会議に近いものがあります。<多孔化>した現実を生き抜くのは大変ですが、見方を変えていけば現実を面白いものに変えていけるんじゃないでしょうか。また、そういったスキルが、これからのビジネスマンには求められると思います。
(構成=宮崎智之

●プロフィール
鈴木謙介(すずき・けんすけ)
1976年、福岡県生まれ。社会学者。関西学院大学社会学部准教授。主な著書に『ウェブ社会の思想』(NHKブックス)、『カーニヴァル化する社会』(講談社現代新書)、『<反転>するグローバリゼーション』(NTT出版)ほか。『文化系トークラジオ Life』(TBSラジオ)のメインパーソナリティを務める。

BusinessJournal編集部

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『ウェブ社会のゆくえ <多孔化>した現実のなかで』 「いま・ここ」が、様々なウェブの情報空間とスマホ等をとおして結びつく<多孔化>。いまや私たちの現実は多孔化という大きな変容をうけ、それは共同体の危機にまで結びついている。デート中にtwitterをのぞく恋人やFacebookに位置情報をアップするフレンドで成り立つ社会の形とは? いま最も注目される社会学者による、待望の書き下ろし! amazon_associate_logo.jpg

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