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なぜメディアはアベノミクスの負の面を報じない?物価上昇で生活打撃、内需企業の苦境…

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 安倍晋三首相は「日本を、取り戻す」と言っていますが、15~24歳の若い年齢層の失業率を指す若年層失業率は、日本は10%以下です。さらに成人失業率も6%以下と、世界で見るとダントツに低くて、経済が好調だといわれるドイツの6.8%よりも低いのです。つまり、日本経済は安倍首相やメディアが言うほど悪くはない。でも安倍首相が「日本を、取り戻す」と言うので、「今の日本経済はかなり悪い」と勘違いしている人も多いのではないですか? こういう数字を見て、「悪くない」と読み取れるかどうかです。

アベノミクスは伝統的な自民党の政策手法

–アベノミクスについては、どのように評価されていますか?

山口 アベノミクスが、特別で画期的な政策のように思っている人が多いかもしれませんが、伝統的な自民党の政策手法ですよ。従来の自民党と何も変わったことをやっているわけではありません。だから、安倍首相ではなく、石破茂同党幹事長でも、谷垣禎一元同党党首でも、結局は同じことだと思いますよ。

 例えば、金融緩和は1990年代からずっとやり続けていますし、財政投入は80年代からどれだけやってきたことでしょうか。その結果、国の借金が1000兆円にも膨れ上がってしまった。つまり、今までやって効果のなかったものをもう1回やろうとしているのです。国土強靱化計画という名の下に、民主党政権時代にいったん中止となった八ッ場ダム建設も、結局復活しましたからね。日本全国で一度やめたはずの公共投資が復活しているわけですが、元々査定をして不必要となったものを今さらつくって、どうするのでしょうか?

 その中で、規制緩和の推進は唯一希望が持てるものでしたが、ゆうちょひとつ民営化できない人たちが規制緩和と言っても信じられないですよね。規制緩和も、薬のネット販売だけで終わってしまいそうですね。ですから私が「アベノミクスは蜃気楼」という所以がここにあるわけです。

–メディア報道では、「アベノミクス効果で企業業績は改善している」と言われています。

山口 それはトヨタやホンダなど、ほんの一握りの輸出企業で、円安になった、つまり円高が修正されたことで輸出の採算が改善したというだけなのです。一方で、食品関連や小売り関連の企業はボロボロですよ。

 これは貿易統計を見れば明らかで、5月の貿易統計(速報)によると、輸出は金額ベースでは5兆7000億円と前年比10.1%増となりましたが、数量ベースでは4.8%減です。円安になって輸出量が増えると思ったら、増えなかった。一方で、輸入は、「円安による燃料価格の増加が響く構図」が続いており、前年比10.0%増の6兆7000億円と、5月としては過去最大。この結果、11カ月連続の貿易赤字となり、赤字幅は過去3番目、5月としては過去最大の赤字となりました。

 輸出は全部ドル建てと思われているかもしれませんが、ドル建てが50%、円建てが40%程度です。つまり年間60兆円の輸出の内、為替差益が出るのは30兆円分です。一方、輸入は70%がドル建てです。現時点では輸入のほうが多いのですが、仮に輸出と同じくらいの年間60兆円だったとすると、輸入では42兆円分は為替差損が出るわけです。

 日本のGDPに対する輸出の比率(輸出依存度)は14~15%です。皆さんが思っているほど日本は輸出に依存している国ではありません。つまり、「円高は困る」という企業は少ないということです。一方で、トヨタやホンダなどの大手輸出企業は、円高対策もしっかりできています。そういう企業にとって、円高が修正されれば、つまり想定レートよりも円安になれば業績が回復するのは当然でしょう。ただ、その大部分は為替差益で潤っているだけです。

 そうした企業たちは、その差益の中から多額の広告宣伝費をメディアに投入する。先日テレビ局で働く友人と話をしたら、「これだけ広告収入が増えたら、自分たちのボーナスはいくらになるか」という話題で持ちきりだそうです。そういう人たちは、アベノミクスに対して表立って批判的な報道はできませんね。なにせ受益者なのですから。

●円安のマイナス面

–メディアの論調は円安歓迎ですが、日本経済にとって円安はマイナスということですか?

山口 円安になって、皆さんの暮らしに何かいいことはありますか? 例えば、給料が上がるとか、円安還元セールがあるとか。逆に、暮らしが厳しくなることはたくさんありますよね。食料品、ガソリン、そして電気料金、何から何まで生活関連の物価がすべて値上がりします。ですから、少し考えればわかることで、大多数の日本人にとっては、通貨が安くなることによるマイナス面のほうが圧倒的に多いわけです。

 通貨の強さを決める要因として、経常収支や財政収支、それから金利差、いろいろなことが言われますが、どれか一つの要因だけで決まるというものではありません。それらの要素に、治安のよさ、軍事力なども加えた国力そのものが通貨価値を決定します。つまり、どの通貨を保有しているのが一番安全かという、きわめて曖昧な安全志向の結果なのです。

 しかし、通貨が強いということはその国が安全かつ強力だということの裏返しだともいえるからこそ、少し前までは米ドルが世界最強だったわけです。その前は大英帝国の英ポンドでしたね。今、アメリカがよたよたし始めたので、日本円が強くなったわけです。

 1971年8月、米国のリチャード・ニクソン大統領は、ドル紙幣と金との兌換停止を宣言し、ブレトン・ウッズ体制の終結を告げる声明を発表しました。これがいわゆるニクソンショックで、その後、71年12月に各国蔵相はワシントンD.C.のスミソニアン博物館で会議を開き、「ドルと金との固定交換レート引き上げ」「ドルと各国通貨との交換レート改定」を決めました。この時の日本の大蔵大臣が水田三喜男氏。日本円は360円から308円へ、16.88%切り上げられました。

 さらに各国が変動相場制に移行し、あっという間に1ドル=180円まで円高が進むのですが、「これ以上円高が進むと、日本は輸出ができなくなる」という議論が日本全国に渦巻いたわけですよ。そういう状況を「日本の危機です」と説明する水田氏に対して、昭和天皇は「自国通貨の価値が上がることは、それほど悪いことなのか」とお尋ねになったそうです。その質問に、水田氏は答えられなかったといわれています。
(構成=編集部)

※後編へ続く

BusinessJournal編集部

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