これらのカメラメーカーはいずれも、カメラで培った光学技術を使い、新たな立地で高い地位を築いた。同じ技術を使っても、価格競争の波に巻き込まれ、1万円以下で売られているデジカメとは比べ物にならないほど立地条件が良い。

 何よりも、医療市場のおいしさは安定性と高収益性にある。ある時はオリンパスのデジカメ、今度はソニーのデジカメといった具合に、頻繁に買い替える一般消費者ほど医師たちは浮気者ではない。医学生時代にオリンパスの内視鏡操作を学んだ医師は、一生、オリンパス製品を使い続ける人が多い。また、複写機やプリンターがトナーという消耗品が大きな収益を生むのと同様、内視鏡に使われる付属機器は高い利益率が期待できる。

 このように、すでに稼いでいる事業(製品)で用いている知恵(技術)を立地転換先で活用することで、より高い利益率を実現することができる。この戦略こそが、高コスト体質になった日本企業の経営にとってはより現実的な競争力強化策といえよう。

 すでにソニーは、マイクロニクス社などの海外企業を買収し、12年以来、iPS細胞などの再生医療やがんなどの研究用に細胞を測定する装置「フローサイトメーター」の出荷を開始し、医療分野を強化し始めていた。さらに、13年4月には、オリンパスとの医療事業合弁会社として、「ソニー・オリンパスメディカルソリューションズ」を設立したことを契機に新たな好立地を模索している。

 ソニーは映像やエレクトロニクス分野の技術を生かして、80年代より手術室や検査室で使用するモニターやプリンター、カメラを提供することで医療分野と関わってきた。例えばCT(コンピューター断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像診断)検査の結果を画面へと出力する役割を、AV機器で培ってきた映像技術が担っている。また、内視鏡手術をはじめとする外科医療においては、手術を行う部位(術部)をモニターに拡大表示することで医師をサポートしてきた。

 ハイビジョン映像の4倍以上の解像度で精密に患部を表示する4K技術や、正確な奥行きを把握できる3D映像技術を活用した革新的な外科イメージング機器の開発も進めている。高精細なハイビジョンや3D映像の登場と、技術の進化とともに映像技術と医療の関わりは年々深まりつつある。

 内視鏡手術では医師が術部を肉眼で確認するのではなく、数センチの穴から挿入した内視鏡で体の内部をリアルタイムで撮影し、その映像を見ながら手術を行う。細部までくっきりと見える明るく精細な映像は、医師の執刀に必要不可欠なもの。また、高い精度で奥行きを把握できる3D映像は、術部の様子を正確な立体感をもって把握することができ、手術精度の向上に役立つ。

 このようなソニーのAV技術とオリンパスが持つ内視鏡技術をドッキングすることで未来を拓こうというのが、両社が手を組んだ真の狙いである。

●崩れる既成概念

 ところで、今や日本の家電技術は、国内外の消費者から冷ややかな目で見られており、「もう4Kなんていらない。今の解像度で十分。斬新な技術として鳴り物入りで発売した3Dテレビも、さっぱり売れなかったではないか」といった声が聞かれる。再び、クリステンセン氏がいうところの破壊的イノベーションの犠牲者になる危険性を秘めている。

 ソニーは家電メーカーという既成概念で見ると、そのような声にも耳を傾けなくてはならないが、「稼げる場」として医療分野にこれまででは考えられないほど力を入れようとしている現実を直視してみると、同社に対する見方を変えなくてはならないのではないか。ただ、今のところ、ソニーは、医療で目をひくような実績を上げたわけではないので、パナソニック電工が持っている技術と市場をそのまま使えるパナソニックのほうに、食い扶持を稼ぐ力あり、と市場は軍配を上げているのだろう。ただし、それは現時点の近視眼的見方であり、ソニーはこれからどう化けるかわからない。

 イノベーションと、いうとまったくこれまでになかった製品を生み出すことだと考えられがちだが、決してそうではない。現在ある技術・ノウハウを応用・改良し、いかに違う市場に生かすかという知恵が、付加価値の高い市場へ立地転換を図る上では重要である。

 前出の三品教授は、歴史に残る発明を取り上げて、一からやり直す「リ・インベンション」を提唱している。これには、技術力以上に個人に宿る構想力を要する。意外にもアップルのヒット商品には、この「リ・インベンション」型のものが多い。日本企業からはイノベーションが生まれない、と嘆くよりも、お蔵になっている知に光を当て、斬新な構想のもとに、新製品やビジネスシステムを考えることが大切なのではないだろうか。
(文=長田貴仁)

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