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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第53回

談合で価格決定、不当利得の新聞業界~過小資本で経営の傾いた巨大新聞社に税金投入?

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 再販は再販売価格維持制度の略で、メーカーが小売業者に対し商品の定価を遵守させて販売させることだ。特殊指定は公正取引委員会が特定の事業分野について独占禁止法の不公正な取引方法を具体的に明示して規制する制度だ。新聞の場合は学校教育教材用など一部を除き、多様な定価・価格設定を行うことを禁止している。再販の対象になっているだけだと、新聞社と販売店の間で合意すれば割引販売ができる。しかし、特殊指定があるがゆえに原則として定価販売を強制でき、新聞は全国一律価格となっている。

 「談合は否定せんわ。じゃが、それは20年くらい前までの話じゃろ。今はもうやっちょらんぞ。じゃから、朝刊1部の定価はばらけちょる」

 2年前に、大都、日亜の両社が朝刊1部の定価を130円から150円に値上げしたが、国民は据え置きにしている。

 「でも、月極めの購読料(税前)は4000円で、17年据え置きのままです。1997年(平成9年)4月に消費税アップ分は転嫁しましたけど、こんな長期間、価格が変わらない商品なんてないですよ。それは新聞社がずっと過大な利得を得ていたことを意味します」

 太郎丸と吉須のやり取りを聞いていた深井が嘴を入れた。

 新聞の月極め購読料は年号が昭和から平成に代わる頃までは、談合で決めるのが当たり前で、2~4年に一度くらいの頻度で、業界がこぞって購読料を上げてきた。談合は誰の目にも明らかだったが、公正取引委員会は〝第四の権力〟新聞社に遠慮して黙認を続けた。ところが、年号が平成になり、消費税が89年(平成元年)4月に導入された際の値上げ(2800円から3200円へ値上げ)で公取委も黙認はできず、値上げの説明を求めた。

 当時は日米構造協議で、日本の閉鎖的な取引慣行や談合体質が日米経済摩擦の大きな争点となっており、公取委も新聞業界だけ特別扱いできなくなったのだ。それでも、新聞業界の方は公取委が本気ではなく、ポーズだと解釈、2年後の91年の値上げは談合だったが、「一斉」をやめて「五月雨的」にした。このため、公取委も黙認したのだが、それが新聞業界を図に乗らせた。3年後の94年4月だった。

 大手3社が月極めの購読料を4000円に一斉に引き上げたのだ。さすがの公取委もカチンときた。日米構造協議は決着(90年6月)したが、日米経済摩擦は終息せず、93年5月に日米包括経済協議が設置されても、摩擦は終息していなかった。

 そんな中、大手新聞は一様に米国の主張に同調、日本は市場開放せよ、と金太郎飴のように声高に主張していた。当然、談合などあってはならない、というスタンスだった。その大手3社が公取委の警告を無視して、談合を繰り返すわけだから、公取委としてもこれ以上、新聞業界だけを特別扱いして、独禁法の治外法権にするわけにはいかない。同調的値上げとして報告を求めると通告したのである。そうなれば、お互いに疑心暗鬼になるだけで、簡単には値上げはできない。その状況が17年も続いているのである。

 この10年間、日本はデフレの泥沼に嵌(はま)り、いまだにその泥沼から抜け出せずにいる。値下げがあっても、値上げなど論外だ。それなのに、大手新聞の経営は安泰だった。それは何を意味するか。戦後、新聞の値段が不当に高く設定されていたことにつきるのだ。

 10年くらい前から新聞の部数は横ばい、広告は減少トレンドに入り、数年前からは部数も減少し始め、広告は減少に拍車がかかった。採算が悪化しているわけだが、利幅の縮小で済んでいる。しかも、過去の不当利得でため込んだ内部留保もある。今、経営危機に陥るのが現実味を帯びてきたとはいえ、不当利得をむさぼり続けた罪は消しようがない。
(文=大塚将司/作家・経済評論家)

【ご参考:第1部のあらすじ】業界第1位の大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に合併を持ちかけ、基本合意した。二人は両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)に詳細を詰めさせ、発表する段取りを決めた。1年後には断トツの部数トップの巨大新聞社が誕生するのは間違いないところになったわけだが、唯一の気がかり材料は“業界のドン”、太郎丸嘉一が君臨する業界第2位の国民新聞社の反撃だった。合併を目論む大都、日亜両社はジャーナリズムとは無縁な、堕落しきった連中が経営も編集も牛耳っており、御多分に洩れず、松野、村尾、北川、小山の4人ともスキャンダルを抱え、脛に傷持つ身だった。その秘密に一抹の不安があった。

※本文はフィクションです。実在する人物名、社名とは一切関係ありません。

※次回は、来週11月29日(金)掲載予定です。

BusinessJournal編集部

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