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日本企業に広がる中国撤退気運〜人件費・政治リスク上昇で迫られる、アジア戦略の見直し

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 こう解説するのは、今月『悪中論』(宝島社)を上梓した経済評論家・上念司氏だ。本書では中国経済に関するさまざまな統計や指標を収集し、政府統計があてにならないといわれている中国の現状をデータから推計する試みを行っている。

「中国語は読めませんので、中国発の情報は英語に自動翻訳したりIMFや世界銀行、CIA、金融機関などのデータを中心に精査し、中国の実情に迫ってみました」(上念氏)

 そして上念氏が見た中国の実情は、バラ色の未来などではない、先行きの厳しい国の姿だった。

 ジェトロの「アジア・オセアニア主要都市・地域の投資関連コスト比較(13年5月)」には、次のように書かれている。

「12年10〜11月に進出日系企業に対して実施したアンケート調査で、中国をはじめタイ、ベトナムなど多くの国における経営上の問題点で首位に挙がったのは、11年に引き続き『従業員の賃金上昇』だった。中国の製造業と非製造業の11年〜12年にかけてのベースアップ率はそれぞれ11.7%、9.8%。社会保険などを含めた年間総負担額も各都市で上昇した。中でも作業員の場合では、大連で前年比20.4%増の7328ドル、瀋陽で同20.2%増の7867ドル、広州で同19.8%増の7745ドルと、3都市で約2割の上昇となった」

●工場撤退で農民工が暴徒化のリスクも

 唯一の利点が薄れることで、企業の投資意欲もなくなってきている。また、12年の中国国内での反日暴動以降顕在化した“チャイナリスク”によって、中国から撤退を検討する企業が増えてきている。問題は工場が撤退し、雇用吸収力が落ちた都市には、仕事を求めて集まった農民工(農民戸籍を持ちながら都市部で働く労働者)が残っているということだ。

「仕事にあぶれた農民工は2億3000万人ほどいるといわれています。これが流民化する恐れがあります。彼らは年金や保険が一切適用外ですから、何をするかわかりません」(上念氏)

 その不満の矛先が中国政府に向かうのか、反日暴動というかたちになるのかはわからない。しかし2億人超の不満が都市部ではじけたら、暴動では済まなくなる危険性もある。

●中国はルイスの転換点を超えられるのか?

 中国をはじめとするアジア各国は、日本の戦後のキャッチアップ型成長モデルを踏襲した。農村部にいた大量の余剰農民を労働力として、インフラ整備をし、国土を整え、国内の循環を高め、安い人件費を利用した工業製品を海外に売ることで経済を成長させる。しかし、この経済モデルがいつまでも続くわけではない。

「キャッチアップ型のモデルは、やがてルイスの転換点を迎えます。稼いだ金で安心して消費できるように構造改革を進め、公害を克服し、社会福祉制度を整備し、省エネ技術を発達させていかなければならなくなるのです」(上念氏)

 ルイスの転換点とは、工業化のプロセスが順調に進展した場合、農業部門の余剰労働力が底をつき、工業部門により農業部門から雇用が奪われる状態となり、人口増加による成長モデルが限界に突き当たるポイントのことだ。このポイントを乗り越えるには経済構造を変える必要があり、日本は乗り越えることができた。中国は乗り越えることができるだろうか。ある意味で、三中全会の「改革の全面的深化」はそれを意図したものといえるが、上念氏は中国が転換点を乗り越えるのは難しいという。

「なぜなら、改革を進め、問題を解決するための大前提として政治改革が必要だからです。政治改革を成し遂げ、構造改革を進めていくには、いろんな利害を持つ人の意見を聞かないといけない。つまり、民主的なプロセスが必要になるわけです。しかし、中国は一党独裁のファシズム国家です。党が国家より上にあり、議会制民主主義の常識が通用しません。一言でいえば議論ができない国なのです」(同)

 生活に苦しむ人民(=中国に国民はいない)の不満は、解消されなければいつかは爆発する。これは農民工だけの問題ではない。チベットやウイグルといった弾圧されている民族の問題もある。役人の腐敗や汚職への不満もある。

「中国共産党の幹部たちは、不満をそらすために対外戦争をしかけようとするでしょう。周辺国との戦争状態になっている間は、戦時内閣最強の法則によって中国共産党の一党独裁は続きますから。相手国を挑発し、挑発に乗るまでエスカレートしていくと思います。昨年の暴動もそうですが、中国はもうその段階まで来ていると言っていいでしょう」(同)

 ではそうした隣国に対して、日本はどのような対応をとるべきかのか?

 上念氏は、降り掛かってくる火の粉を払い続け、時間稼ぎをするべきだと言い、具体的には、「中国に進出している企業は、できるだけ早く撤退するなり縮小させるなりして、東南アジアやアフリカなど、ほかに人件費が安い国に進出するほうがいい」とアドバイスする。

 日本企業は今、いま一度アジアへの進出戦略を見直す時期に来ているのかもしれない。
(文=島田健弘/ライター)

BusinessJournal編集部

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