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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第55回

株式売買価格を固定する“傲慢経営”の巨大新聞社~天然記念物的閉鎖性が堕落を生んだ

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株式売買価格を固定する“傲慢経営”の巨大新聞社~天然記念物的閉鎖性が堕落を生んだの画像1「Thinkstock」より
【前回までのあらすじ】
 業界最大手の大都新聞社の深井宣光は、特別背任事件をスクープ、報道協会賞を受賞したが、堕落しきった経営陣から“追い出し部屋”ならぬ“座敷牢”に左遷され、飼い殺し状態のまま定年を迎えた。今は嘱託として、日本報道協会傘下の日本ジャーナリズム研究所(ジャナ研)で平凡な日常を送っていた。そこへ匿名の封書が届いた。ジャーナリズムの危機的な現状に対し、ジャーナリストとしての再起を促す手紙だった。そして同じ封書が、もう一人の首席研究員、吉須晃人にも届いていた。その直後、新聞業界のドン太郎丸嘉一から2人は呼び出された。

 太郎丸嘉一が酒を注ぎながら吉須晃人、深井宣光の二人を交々見つめると、深井が改まった調子で口を開いた。

「一つ、聞いておきたいことがあります。国民の株式売買を巡る裁判です」

「ふむ。なぜ、聞きよりたいんじゃ?」

「最高裁で確定した判決が新聞社の資本増強を事実上不可能にしていると思うからです」

「そのことかいのう。確かにあの判決が足枷(あしかせ)になっちょる面はあるわな。日亜などはそうじゃが、うちや大都は足枷にはならんのじゃ。じゃが、まあええ。説明しちゃろう。うちの生い立ちも無関係じゃないけんのう、そこから説明しちゃろう」

 太郎丸はそう言って話し始めた。

 戦時中の新聞統制で「伝報新聞」と「都新聞」の2社が合併して発足した国民の会社形態は昭和15年(1940年)施行された有限会社法に基づく有限会社だった。有限会社は株式会社同様に出資者を有限責任とする形態だったが、株式会社に比べ制度設計が簡略化されており、小規模会社に適していた。しかし、戦後、大手3社の一角を占めるのに、小規模会社と同じ組織形態では今後の発展に支障をきたすとの判断から、日刊新聞法の施行から6年後の昭和32年(1957年)に有限会社から株式会社に転換した。

 その時の資本金は3億円で、発行価格(旧額面)は50円、発行済株式数は600万株だった。今日まで国民は増資せず、資本金は現在も3億円のままで、日亜の資本金(30億円)の10分の1、大都の資本金(6億円)の半分だ。新聞業界は他の日本企業に比べ極端に過小資本だが、国民はダントツの過小資本なのだ。

 かつて国民も大都と同様に社主の存在する会社だった。社主は戦前の労農運動家出身の政治家、山村稲次郎(やまむらいねじろう)で、株式会社に転換した時点で、その保有株数は350万株、持ち株比率は12分の7(58・33%)だった。昭和40年(1965年)に稲次郎が急逝、長男の伸太郎(しんたろう)への相続の際に、350万株のうち300万株(持ち株比率50%)を三つの財団に寄付し、社主の存在する新聞社でなくなった。その時から社主一族の保有株数は550万株、持ち株比率は8・33%に低下、経営を左右する力はなくなった。

 一方、社主から寄付を受けた三つの財団の実権は国民の経営陣が握る仕組みで、経営陣が事実上50%の株を押さえることになった。元々、社主以外が保有する250万株(41・66%)のうち100万株(16・66%)を味方に付けるだけで、経営陣は会社を支配できた。国民は大都、日亜両社に比べると、経営陣が株主を気にしないで済む会社だった。

 太郎丸は国民の会社形態などの説明を終え、株式売買裁判の原因や背景の説明に入った。大手3社のなかで、経営陣が株主で頭を悩ますことがないとみられていた国民でなぜ最高裁まで争う裁判沙汰が起きたのか。それには2つの要因があった。

 一つは社主一族と三つの財団以外の株主が保有する250万株(41・66%)は「国民新聞株保有機構」が管理、売買や相続はすべて機構を通じて行い、その取引価格は発行価格(旧額面)の50円で固定するという慣行があったことだ。

 250万株のうち、150万株(25%)は株式会社転換以前の株主(もしくは相続人)約100人が保有、事実上の相続が認められている。100万株(16・66%)の株主は転換以後の国民新聞社の幹部社員(OBも含む)約200人で、株主が死亡すると、機構が買い取り、現役の幹部社員に分譲する。

BusinessJournal編集部

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