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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第56回

害悪を撒き散らす新聞業界のエゴ~日本の会社制度の根幹を揺るがし、自分たちは不当利得

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 深井がイチゴに手を伸ばし、一息入れたが、吉須は難しそうな顔で黙ったままだった。
 
「成功した中小企業経営者にとって頭痛の種は株式が高く評価されて相続や取引がしにくいことなんです。それが『国民新聞株保有機構』と似たような仕組みを作って取引を集中させれば、会社の純資産や収益に関係なく、価格を固定できる可能性が強いといえます」
「なんでそんな判決を裁判所は出したんだね」
「元々、裁判官という人種は世間知らずが多いうえ、長いモノには巻かれる性癖があります。知らず知らずのうちに、マスコミとことを構えたくないという意識が働くんでしょうね。それにやっぱり会長の威光もあったでしょう」

 深井は皮肉な笑いを浮かべ、太郎丸に目を向けたが、また仲居が最後の「菓子」の水羊羹と抹茶を持ってきた。太郎丸は水羊羹を食べて抹茶を飲んだ。

「何を言いよる。わしは無関係じゃ。裁判所が勝手に出しよった判断じゃ」
「知らんじゃ済みませんよ。会長の救済策は財務省の賛同がないと前に進みません。その財務省の傘下にある国税庁はカンカンらしいです」
「…深井君、そうじゃとすれば、わしのエゴ、いや国民のエゴが害悪を日本の経済社会に撒き散らしちょるとなじられちょっても、反論できんのう…。じゃが、あの時は他に道がなかったんじゃ」
「僕は嘘を言っているわけじゃありません。新聞業界に害を及ぼすだけなら、自業自得でいいですが、大げさに言えばあの裁判は日本の会社制度の根幹を揺るがしているんです」
「ふむ。わしは国民の不当利得は国に返す覚悟じゃ。じゃから、日本のジャーナリズムのために協力しよってくれや。財務省がそんなことじゃったら、深井君だけじゃなく、吉須君の協力は欠かせんぞ。お主、頼むぞ」
「今の業界は人を替えなきゃだめです。それができないなら、僕は何もしません」

 吉須が冷ややかに言い放ったが、太郎丸は意に介さず、「そうカッカしよるな。わかっちょる。席を替えて今わしが極秘にやっちょるプロジェクトを教えるけん、それから判断しよれや」というと、席を立った。

×××

 太郎丸が吉須と深井の二人を連れて「吉祥」を出たのは午後8時半少し前だった。五稜ビルの裏通りでタクシーを拾い、三人が向かった先は築地の料亭「すげの」である。東銀座の新橋演舞場の並びにある国民本社から徒歩5、6分のところだ。以前は新橋演舞場の汐留側の路地にあったが、15年前に現在の場所に引っ越した。

 「すげの」は戦前は〝料亭〟ではなく、〝待合〟だった。海軍将校が出入りする、由緒ある〝待合〟だったこともあり、〝料亭〟と名乗った戦後も〝待合〟的な隠れ家だった。引っ越す前は1階に一部屋、2階に二部屋しかなく、新橋の有名料亭で開いた宴席が跳ねたあと、なじみの芸者を交え少人数で二次会をやる場所として使われることが多かった。

 4階建てビルの今は部屋数も倍に増やしたが、水天宮の割烹「美松(みまつ)」同様に板場はなく、料理は仕出しだ。戦前に芸者をしながら店を興した老女将は10年前に亡くなったが、店を継いだ娘の女将も70歳半ばで、道楽で「すげの」を続けているようなところがあった。

 店の場所が引っ越しの前も後も国民本社の近所なこともあり、太郎丸は約50年前から「すげの」に出入りし、常連客の一人だった。タクシーを店の前に止めると、太郎丸は吉須と深井を従え、硝子戸を開けた。

「おい、来よったぞ。準備はできているな」

 上り框(かまち)で太郎丸が大声を上げると、40歳くらいの和服姿の小柄な女が迎えに出てきた。

「おこた(炬燵)のお部屋、用意していますよ。さあ、お上がり下さい」
「若女将よ、女将さんはどうしよった?」
「今日は〝たーちゃま〟たちだけなの。それで、もう休んでいるわ。いいでしょう」

 若女将は三人を1階の小部屋に先導し、答えた。

「今日は三人だけの話じゃ。ええわな」
「わかっています。お部屋に乾き物のおつまみ、ビールと焼酎、それにお湯と梅干も置いてあります。入ってくるなっていうんでしょ」
「そうじゃ。呼ばん限り、覗きにきよるな」

BusinessJournal編集部

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