私は当初、「年齢に応じて子どもを出産するモチベーションが下がっていくが、女性は閉経までは、概ね同じ比率の妊娠の可能性を有しているのだろう」と、思っていたのです。しかし、赤色のグラフを重ねた時、愕然としました(ARTデータブック・2011年より)。

 赤色のグラフは、不妊治療[生殖補助技術(Assisted Reproductive Technology:ART)]を行ったカップルの妊娠の成功率です。「不妊治療をする」ということは「100%出産する意思がある」ということです。それにもかかわらず、35歳で20%、40歳では10%に至っていません。もちろん、この数値が、治療を必要としていないカップルにそのまま当てはまるとは限りませんが、その傾向は同じであるはずです。数値を見る限り、20代→30代→40代→50代の順番で、妊娠成功率は、おおまかに3→2→1→0という比率で減少しています(なお、この比率は妊娠のみに着目しており、流産の結果を入れていないことに注意してください)。

この比率こそが、現在の女性にすら十分に知られていない「産みたいのに産めない」という悲劇の原因--「卵子の老化」によるものなのです。

●出産のメカニズム

 まず、出産のメカニズムを、モデル図を使って簡単に御説明します。

妊娠という非効率的メカニズム~私達の体に書き込まれている「出産させないシステム」の画像4

 女性器は大きく、膣、子宮、卵管、卵巣の4つから構成されています。

 性交渉によって男性器から放出される精液には3億個の精子が入っていますが、これらの精子は、殺菌を目的とする酸性の体液で満たされている膣の中でほとんど死滅させられます。実にその生存率0.001%という空前絶後の大虐殺です。この数は、あるひとつの大学のキャンパスの学生たちを残してアメリカの全人口を殺害するような徹底的な虐殺ぶりです。ロシアや中国が、核ミサイルの全弾を米国本土に撃ち込んだとしても、生存者はもっと多いだろう--というくらいです。

 また、その生き残った3000個の精子は、子宮という広大な迷路の中で力尽き、あるいは、子宮の中にいる猟犬のような白血球に喰い殺されます。また卵管入り口の厳しい「エリート選抜審査」によって大部分が卵管への入国を拒否され、97%が子宮内で死滅します。命からがら卵管に辿りつける精子は100個にまで減ります。ここで、100個の精子たちは、ようやく一息ついて、卵子の登場を待ちます。

 100個の精子たちは、卵管の中で卵子を見つけると、弾頭(先体)を抱えて、卵子に一斉に自爆テロ攻撃をしかけます。卵子の中身を守る重装甲板を少しずつ破壊し続け、そして、後ろのほうからやってきた「ずるい」「運の良い」精子のひとつが卵子の中に入り込むことで、ようやく受精に成功します。受精の直後に、自爆テロの停戦命令が発せられ、こうして、卵子とペアになれた3億の中のたったひとつの精子を除きすべてが死滅し、戦いは終わりを迎えます。

 受精した精子と卵子は受精卵となって、その後「胚」というものに変化します(ここでは、胚のことも含めて「受精卵」で統一します)。受精卵は、子宮にくっつきます(着床)。子宮はとは、いわば胎児を育てるための最高級ホテルのスイートルームの役割をはたします。しかし、着床直後は受精卵のひっつき方が弱いので、激しい運動などによっては簡単に子宮から受精卵が剥がされてしまいます。これが流産です。

 一方、卵子はおよそひと月に1回、卵巣から「ポコッ」と排出(排卵)されて、卵管の中で100個の精子の自爆テロ攻撃に対する迎撃体制に入っていますが、卵子の生存期間はわずか24時間しかありません。この間に精子が登場しなかったり、または精子がひとつ残らず、卵子の重装甲板を突破できなかったら、この戦いは、卵子も含めて「勝者なし」で終了します。

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