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危険な空き家、なぜ多数放置?国・自治体で対策の動き相次ぐ~解体費用補助、税軽減…

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●対策に乗り出す自治体相次ぐ

 そこで自治体は空き家条例を施行することで、問題解決を図ろうとした。

 10年10月、埼玉県所沢市は全国で初めて「空き家対策条例」を施行。施行以前は、空き家の苦情に対応する担当部署が明確でなく、所有者の指導に法的根拠がないなどで、打つ手がない状況が続いていたという。所沢市の条例では、所有者に適正な管理を義務付けると共に、住民から情報提供があれば市が実態調査を行い、所有者に助言、指導、勧告を行うことができ、さらに従わない場合には氏名を公表、最終的には警察等に依頼し、撤去を行えるようにした。条例施行前は年に数件だった自主的な撤去が、施行後は空き家の撤去が10件を超え、条例制定に一定の効果があることが証明された。

 所沢市の条例がきっかけで、全国で条例制定が続いた。昨年10月時点で272の自治体で条例が制定されている。

 東京都足立区は11年11月に都内で初めて空き家条例を施行。注目されるのは解体費用を助成する内容になっていることだ。足立区では、勧告に従って住宅の解体を行う場合は解体費用の9割、上限100万円を補助している。3年がかりで補修を呼びかけていた住宅で外壁タイルが落下する事故があり、老朽建物への対応を検討していたところに東日本大震災が発生し、一気に条例制定にまで進んだ。条例を施行して以降、これまで45軒が解体された。

 空き家の撤去を促すためには、行政代執行のような強制的な手段だけではなく、場合によっては撤去するための費用を自治体が援助することは有効な手段といえる。秋田県大仙市では12年3月に行政代執行が行われたが、解体費用180万円の回収の目途は立っていないという。

 東京都内の空き家問題を担当している自治体職員は語る。

「行政代執行の場合、所有者に解体費用を請求できるが、支払い能力がないために、ほぼ戻ってこないと考えていい。解体費用も高額なので、何軒も解体というわけにはいかない」

 こうした実情を踏まえると、解体費用を助成することによって迷惑空き家を解決するほうが賢明な判断と言えるかもしれない。

●国、政治レベルでも対策への動き相次ぐ

 しかし、自治体の努力だけでは限界がある中で、ようやく国土交通省も対策に乗り出したところだ。個人が空き家を解体する費用の5分の4を国と自治体が助成する「空き家再生等推進事業」が13年度からスタートしている。自治体で条例制定していない都市部を含めて、全国どこでも支援を受けられるようにすることが国交省の狙いだ。

 しかし、解体費用の助成だけでは、解体して建物がなくなると住宅用地の優遇措置から外され、固定資産税が数倍に跳ね上がってしまい、解決にならない。

 そこで、空き家対策は国会の場に移されようとしている。自民党の空き家対策推進議員連盟(宮路和明会長)は、空き家の解消を促す税制措置を盛り込んだ「空き家対策の推進に関する特別措置法案」をまとめた。国による基本指針を策定し、市町村による空き家対策の計画を策定するための必要事項を定めるというものだ。空き家の所有者に対し、解体や修繕が必要な場合は、市町村は指導、助言、勧告、命令ができることになり、さらに要件が緩和された行政代執行が可能になる文言が盛り込まれている。今後は全国的に空き家の増加が予想されており、国が基本方針を打ち出すことは大きな前進といえるだろう。現在、同議員連盟は次期通常国会での法案提出を目指し、自民党の関連部会や公明党と調整中である。

 同法案の中で特に注目したいのは、建物を自主的に撤去した所有者に対して、住宅用地と同様に扱う固定資産税の軽減措置が講じられる点だ。これによって、更地にすると数倍になるはずの固定資産税が一定の期間免除される。

 自民党の同議員連盟関係者は次のように語る。

「ポイントは、空き家の所有者に、自主的に処理してもらうことだ。固定資産税の軽減措置を行うと税収が少なくなると懸念する自治体もあるが、今のまま対策を取らなければ空き家は増え続けるだけだ。税収以上に不経済な空き家を解決することのほうが重要。所有者も軽減期間に新しい建物を建設できれば固定資産税額が増えることはない」

 もし同法案が可決すれば、空き家増加に対して一定の歯止めが期待できるかもしれない。また、同法案は空き家の解体を促し、その土地を活性化させることを目的としており、今後は空き家を解体するだけでなく、空き家をどのように有効活用するかについても考えなければいけないだろう。解体を促進させるだけでは限界がある。

 空き家を迷惑施設と考えるのではなく、空き家を再生して街を活性化するような処方箋も国、自治体は持ち合わせたいところだ。解体と再生の両輪の政策が、空き家問題の根本的解決のために求められている。
(文=藤池周正)

BusinessJournal編集部

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