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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第60回

擦り寄る腐敗した巨大新聞2社~“新聞業界のドン”による掃討作戦はどうなる?

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 太郎丸の頭から、社長の三杯に耳打ちされた情報がこびりついて離れなかった。その情報は大都社長の松野と日亜社長の村尾倫郎が二人きりで頻繁に会って、何かやろうとしている、何を話しているのかは噂の域を出ないが、印刷工場の統合と経済情報に絞った新媒体創刊がテーマらしい、というものだった。

 社長室で三杯と昼食を取りながらの打ち合わせが終わり、太郎丸が部屋を出ようとした時、ドアまで送ってきた三杯が耳元でささやいたのだ。太郎丸は一瞬、足を止めたが、

「動いちょるのはわかっちょったが、そこまで具体的じゃと、うちも対策が必要じゃぞ。1週間、もう少し情報収集しちょってくれや。わしも動いてみよるけん、来週金曜日にじっくり議論すればええじゃろう」

 と言い残し、ことさら冷静を装いながら部屋を出た。

 松野と村尾がすでに合併で合意、両社の取締役編集局長の北川常夫と小山成雄の二人を交えた二回目の打ち合わせ会を割烹「美松(みまつ)」で開いたのが3日前の3月8日火曜日だ。もちろん、太郎丸はそんな動きを知る由もなかったが、ジャーナリストとしての嗅覚は衰えていなかった。だから、内心はというと、穏やかではなかった。大都、日亜両社が提携関係を深めることになれば、太郎丸が首席研究員の吉須晃人と深井宣光の二人の協力を得て、密かに進めようとしていた画策、ジャーナリズム堕落の元凶である大都、日亜両社の社長の松野と村尾の不倫愛の現場を暴き、辞任に追い込もうという企みの段取りにも影響を与えると思われたからだ。

 太郎丸は2月下旬から探偵を使い、二人を監視、現場写真を撮ろうとしていた。不倫を推定できる写真は撮ったが、決定的な証拠を得るべく5月中旬まで監視を続けるつもりだった。そして、どんなに遅くとも、6月初めには週刊誌「週刊真相」か写真週刊誌「深層キャッチ」にスクープ写真を掲載させ、松野と村尾の二人を引責辞任に追い込む算段だった。

 大都、日亜の両は決算期が3月で、定時株主総会は6月末である。それから逆算すると、経営陣を刷新するには、スキャンダルを暴くタイミングは6月初めがぎりぎりだった。両社のボードメンバーにはもはやジャーナリストの資格がある人材はなく、太郎丸の眼鏡に適(かな)う人材を次期社長に据えるためには、株主総会に諮る役員候補名簿にその名前を載せる必要があった。スクープ写真の掲載は株主総会の招集通知を出す前でなければならないわけだが、それでも、2カ月以上余裕があり、太郎丸はゆっくり構えていた。

この日も午後6時から「すげの」に「週刊真相」と「深層キャッチ」の編集長を招き、掲載までの段取りなどについて意見交換する予定だった。しかし、三杯が取ってきた情報が本当で、大都、日亜両社がこれまで以上に踏み込んだ関係を築こうとしているなら、スキャンダルを暴くタイミングもこれまで通りでいいのかどうか。太郎丸は誰にも邪魔されずに、早めるべきかそれともこれまで通りに進めるべきか、考えたかった。だから、秘書の玲子に「原稿を書く」などと嘘を言って会長室に籠ったのだ。

《急いだ方がええな。じゃがな、写真次第というところもあるけん、どうしたもんじゃ》

 会長室の窓際に立ち、陽光の降り注ぐ日比谷公園を見下ろしながら、太郎丸嘉一は思案を巡らせていた。

 名案は浮かばず、しばらくすると、デスクに戻り、椅子にどっかり腰を落とした。そして、少し冷めたコーヒーに砂糖とミルクを入れ、スプーンでかき回した。一口啜ると、今度はデスクの引き出しからパイプを取り出し、火をつけた。

 太郎丸はパイプの煙をくゆらせ、椅子の背もたれに身を沈め、目を閉じた。

《探偵からは新しい写真が撮れよったら、連絡してきよることになっちょる。吉須と深井を呼びよった4日前の昼に連絡してきよってからは音沙汰なしじゃ》

 太郎丸はため息をつき、パイプをくわえたまま立ち上がった。また窓際まで行き、ぼんやり外に目をやった。

《撮影済みの写真で打って出よる手もあるんじゃが、そこまで急ぎよることもないじゃろう。あと1、2週間、監視すればもっとええ写真が撮れよるかもしれん。それくらい待ちよってええじゃろ。じゃとすると、今できることは限られよるな》

 太郎丸のシナリオでは、「週刊真相」か「深層キャッチ」に写真を提供した後、吉須と深井の二人に取材を受けてもらう、という段取りだった。しかし、写真が撮れたら、すぐにスクープを掲載してもらうには、記事部分の取材を前もってしてもらう方がいい。

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