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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第61回

巨大地震の発生、不倫暴露作戦は棚上げ~ジャーナリストの血が“新聞業界のドン”を動かす

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 この時、深井は15分ほど前の地震がどれほどの大地震だったのか、まだ実感がわいていなかった。今まで経験したことのない大地震だとは感じていたが、自分自身が身の危険を感じることはなかった。建物の中と違って、外にいると、揺れを感じにくいのだろう。

 確かに、街路灯や信号機の柱が左右に波打つように見え、立ち止まると、地面の揺れも感じた。しかし、その程度については太郎丸の感じたように「もしかしたら1000年に一度あるかないか」というほど強烈だったのか、深井には判断できていなかった。だから、日常の延長線上で、携帯電話を取り出したのだ。携帯電話は簡単につながった。

「深井です。少し前、太郎丸会長から突然、電話がありました。その件で、吉須さんに報告がありますが、今、いいですか」
「おい、君。何、呑気なこと、言っているんだ。日本が大変な事態になっているんだぞ。大体、君、どこにいるんだ」
「今、日比谷公園の出入り口のところです」
「大地震があったのはわかっているんだろ?」
「それはわかっています。電話の途中で、会長がビルの大揺れに驚いて叫び出したんで、すごい地震らしいとはわかっています」
「それなら、なんでそんな悠長なんだ?」
「でも、外にいると、車は普段通りに走っていますし、実感がわかないんです。違いと言えば、ビルから人が飛び出しているくらいです」
「君、携帯でワンセグテレビをみてみろ。今は序の口だとわかる」
「僕の携帯、古い機種でワンセグはついていません」
「それじゃ、携帯ラジオを持っていないのか」
「それもありません」
「とにかく、これから三陸海岸など東日本の太平洋側に大津波が押し寄せる。大きな余震も何度もあるぞ。今、また揺れている。驚天動地の災害は間違いない…」
「わかりました。会長は『4日前の話は当分、棚上げだ』と言っています。とにかく、それだけ伝えます。僕も急いで資料室に戻り、テレビをみます」

×××

 深井が資料室に戻ったのは午後3時15分だった。あまり物が置かれていなかったせいか、部屋の中は大地震の直撃を受けたような痕跡はあまりみてとれなかった。受付の開高美舞が研究員のブースの手前にあるソファに座り、テレビの映像にかじりついていた。

「深井さんでしょ。あなたも早く見なさいよ。“日本沈没”するかも…」

 美舞は振り向きもせず、いつになく沈んだ声をあげた。それが未曽有の大地震を裏付けていたが、美舞の後ろに立ち、テレビを覗き込むと、深井は声を失った。テレビには宮古港に大津波が押し寄せ、車や建物を押し流す中継映像が流れていた。
(文=大塚将司/作家・経済評論家)

【ご参考:第1部のあらすじ】業界第1位の大都新聞社は、ネット化を推進したことがあだとなり、紙媒体の発行部数が激減し、部数トップの座から滑り落ちかねない状況に陥った。そこで同社社長の松野弥介は、日頃から何かと世話をしている業界第3位の日亜新聞社社長・村尾倫郎に合併を持ちかけ、基本合意した。二人は両社の取締役編集局長、北川常夫(大都)、小山成雄(日亜)に詳細を詰めさせ、発表する段取りを決めた。1年後には断トツの部数トップの巨大新聞社が誕生するのは間違いないところになったわけだが、唯一の気がかり材料は“業界のドン”、太郎丸嘉一が君臨する業界第2位の国民新聞社の反撃だった。合併を目論む大都、日亜両社はジャーナリズムとは無縁な、堕落しきった連中が経営も編集も牛耳っており、御多分に洩れず、松野、村尾、北川、小山の4人ともスキャンダルを抱え、脛に傷持つ身だった。その秘密に一抹の不安があった。

※本文はフィクションです。実在する人物名、社名とは一切関係ありません。

※次回は、来週1月31日(金)掲載予定です。

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