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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」第16回

脱原発で“失うもの”とは~莫大な国民資産で大量の化石燃料を燃やす地球温暖化サイクル

文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
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脱原発で“失うもの”とは~莫大な国民資産で大量の化石燃料を燃やす地球温暖化サイクルの画像1北海道電力・泊原子力発電所(「wikipedia」より/Mugu-shisai)

 数多くの大企業のコンサルティングを手掛ける一方、どんなに複雑で難しいビジネス課題も、メカニズムを分解し単純化して説明できる特殊能力を生かして、「日経トレンディネット」の連載など、幅広いメディアで活動する鈴木貴博氏。そんな鈴木氏が、話題のニュースやトレンドなどの“仕組み”を、わかりやすく解説します。

 今回の東京都知事選挙(2月9日投開票)の最大争点は、「脱原発」かそうでないかという論点に収束しそうだ。まだ投票日前なので都民がどのような審判を下すかはわからないが、少なくともこれまで震災以降の世の中の空気は、脱原発に賛成する人が多い。

 それはそれでひとつの見識なので筆者は反対はしないのだが、脱原発によってわれわれが何を失っているのかについては理解をしておいたほうがいいと思っている。

 実は1月末に出版した自著『10年後躍進する会社 潰れる会社』(KADOKAWA)の中で、いくつかの業界に起きている破壊的な変化について詳しく述べているのだが、中でもエネルギー業界で起きている変化はマクロレベルで日本に巨大な影響をもたらしている。

 2011年の東日本大震災をきっかけに、当時の菅直人首相が原発の全停止を決断して以降、日本には具体的に3つの大きな変化が起きている。

 (1)東京電力だけではなく電力各社が軒並み大赤字に転落した
 (2)日本が貿易黒字国から、大幅な貿易赤字国に転落した
 (3)日本の地球温暖化抑止への目標は達成できなくなった

 この3つの変化とも、国民の間にはあまり情報として浸透していないようだが、日本の現在および未来に与えている影響はどれも大きい。

 まず電力業界の赤字だが、12年度の決算でいえば、原発事故を起こした東京電力が3270億円の経常損失であるのは当然としても、当事者ではない関西電力は3532億円の赤字、九州電力は3312億円の赤字と、東電以上の赤字決算を記録している。電力10社のうち規模の小さい北陸電力、沖縄電力を除く8社が大幅な赤字を記録している。

 この赤字の理由は原発の停止にある。もともと電力各社は原発に多額な投資をしてきたので、その稼動を止めてもコストがゼロになるわけではない。使用済み燃料の処理や、将来、設備が再稼動できるように維持していくためのコストもかかるし、なによりも巨額の減価償却費が毎年かかってくる。

 しかし、赤字の要因はそれだけではない。原子力に代わる発電量をまかなうために、日本全体で火力発電所をフル稼働させていることがもうひとつの要因である。

 震災前は電力需要の32%を原子力がまかなっていた。これが一度はゼロになったにもかかわらずわれわれの生活がそれほど大きく変わらずに、オフィスも電車も工場も普通に稼動できているのは、太陽光発電のおかげではなく、火力発電がフル稼働しているからにほかならない。

 しかしその結果、何が起きているのか?

 わが国は海外から大量のLNG(液化天然ガス)を輸入しなければならなくなり、その結果として大幅な貿易赤字国に転落したのである。

●地球温暖化推進の舵を切っていくという選択

 日本は長らく貿易黒字国で、1980年代以降、毎年10兆円規模での貿易黒字が続いていた。それが11年に貿易赤字に転落し、12年には6.9兆円という貿易赤字を記録。13年は赤字幅はさらに増え年間で11.4兆円の赤字に到達してしまった。

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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