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「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第2部>」第64回

巨大新聞社社長の不倫暴露作戦、いよいよ始動~新聞業界のドン、2カ月の沈黙を破る

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 二人は前日、リバーサイドホテルの鉄板焼き「浜町」で食事した。太郎丸嘉一会長に会う前に意見をすり合わせるためだったが、話題はもっぱら大地震で、肝心の打ち合わせは食事が終わった後、20分ほどデザートを食べながら、交わしただけだった。そんなこともあって、ホテルを出るとき、翌日午後5時半に銀座で落ち合い、一緒に「すげの」に行く約束をした。しかし、新しい情報はなく、不倫暴露計画には協力すると確認しただけだった。

「すげの」の硝子戸を開けたのは吉須だった。

「やっぱり、スーさんだったのね」

 硝子戸の音を聞いて出てきた若女将が出迎えたが、吉須に続いて深井が入るのをみて、

「あら、フーさんも一緒じゃないの。会長が『昔の“恋人”がくるよ』とおっしゃったから、てっきりスーさんだけが来るのかと思っていました」

 若女将がびっくりした。

「おい、太郎丸さんはもう来ているのかい?」
「ええ、もうお見えですよ」

 若女将は2階の部屋に二人を案内した。部屋に入ると、老眼鏡を鼻眼鏡にした太郎丸が左手の床の間を背にして国民新聞夕刊を読んでいた。

「お二人がお見えになりました」

 太郎丸は夕刊を畳に置き、老眼鏡を外すと、対面に腰を下ろした二人に目をやった。

「おう、すまんのう。急に呼び立てよってな」
「ご無沙汰しました。2カ月ぶりですね。益々、意気盛んな様子でなによりです」

 奥に座った吉須が皮肉っぽい笑みを浮かべた。

「お主も相変わらずじゃな。その茶化すような調子はなんじゃい。『“年寄りの冷や水”はやめておけ』と言いたそうな目をしちょるぞ。まだ若い者に負けちょるわけにはいかん」
「会長、嫌みを言うつもりは毛頭ありません。ここに来る道すがら『今、新聞業界に残っているジャーナリストは会長だけだ』と話していたんですよ。深井君、そうだよな」

 吉須は同意を求めたが、深井は少し困ったような顔つきで含み笑いをするだけだった。すると、卓袱台の手前に座った若女将が助け舟を出した。

「たーちゃま。そんなひねくれた受け止め方したら、スーさんがかわいそうだわ。昔から、こんな調子なの。だから、金融界のトップたち、スーさんのことが好きだったんですよ。たーちゃまも“ドン”なんでしょ。そんなこと言っちゃだめだわ」
「“ドン”の名がすたるか。言っちょる通りじゃわ」

 太郎丸はそう言って大笑いすると、続けた。

「ちょっと大事な話があるんじゃわ。悪いがのう、早ようお茶を持ってきよってくれや」
「わかりました。すぐにお持ちしますけど、お食事はいつごろにされます」

 若女将は立ち上がる前に、左手の床の間を背にした太郎丸をみた。

「30分経ちよったら運んでくれや。次の連中が来よるのは午後7時過ぎじゃからの」

 若女将は部屋を出ると、すぐにお盆に載せたポット、急須、茶碗を持って戻ってきた。二人とも、太郎丸が「次の連中」と言ったのが気になったが、聞くのをためらっていた。そのうちに、若女将が戻ってきた。

「お食事がきたら、お声を掛けます。それまで、お邪魔しませんから、たーちゃまも心配しないでね。お茶はスーさんたちに入れてもらってください」

 若女将は急須にお湯を入れ、二人に茶碗を差し出すと、部屋を出た。

「会長、『次の連中』って誰ですか」

 深井は女将が出るのを待っていたかのように身を乗り出した。

「まあ、待っちょれ。年寄りをそう急かすな。順追って説明しよるところじゃけんのう」

BusinessJournal編集部

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