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ソニー、平井社長の急速な“老化”に透ける再建への苦悩~相次ぐ人員削減の次に直面する課題

文=長田貴仁
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ソニー、平井社長の急速な“老化”に透ける再建への苦悩~相次ぐ人員削減の次に直面する課題の画像1ソニー本社(「Wikipedia」より/Shuichi Aizawa)
 ソニーの顔に大きな変化を見た。

 こう書くと、「えっ、ついにテレビ事業を売却する件か」と思う読者も少なくないだろう。答えは違う。平井一夫社長兼CEO(53歳)の頭が急に白くなってきたのだ。おまけに、文字を読むとき、記者会見のような公の場でも老眼鏡と思われる眼鏡を着用するようになった。白髪や老眼の一因は心労やストレスであるとされている。苦労すると白髪になる、とよくいわれるが、これには根拠がある。髪の黒さを保つメラニン色素をつくっているメラサイト(色素細胞)は人間の神経細胞から分化したものなので、精神的な影響を受けやすい。まさに、平井社長はこの条件に当てはまるのではないだろうか。

 もちろん、年格好からして老化が始まったという見方もあるが、50代前半なら染めなくてもまだ黒々とした頭髪の人はごまんといる。そのような人たちが白髪になり始めたとしても、徐々に白いものが増えていくことが多い。急に痩せ始めた人と会うと「身体の具合でも悪いのでは」と思うのと同様、短期間に白髪化した人を見ると、「苦労しているのだろうな」と詮索してしまうのが人の常である。

 社長に就任した2012年(4月)頃の平井氏は、さっそうとしていた。180cm以上の高身長と端正な顔立ちだけではない。小中学生時代を米国で過ごした帰国子女で、ハワード・ストリンガー前CEOに「私のジョークを完璧にわかるのは経営陣で平井しかいない」と言わせたほど、英語で披露するプレゼンテーションは日本人離れしている。

 社長候補に挙がったとき、エンターテインメント畑出身でエレクトロニクス事業を経験したことがないため、同事業の再建が最大課題となっているソニーの社長には不適格という声もささやかれたが、若々しさではライバルの誰にも負けていなかった。それだけに、急激な「老化」は、平井氏が大きなストレスを抱えていると推察せざるを得ない。経営の重圧に加えて、家族をアメリカに置いての単身赴任という条件もストレスを増幅させているのだろうか。

 かつて、パナソニックの中村邦夫社長も構造改革真っただ中の頃、本当に首が回らなくなった。記者会見やインタビューでも、首をかしげたままで対応していた。

 2人の共通点は、日本を代表する電機メーカーのトップであるというだけでなく、性格がきわめて生真面目なのである。だが、経営者はさまざまな苦労に耐え、立ち向かおうとするアニマル・スピリットがなくして務まらない。ある意味の図太さが求められる。それは「いい加減」という意味ではなく、ストレス耐性の強さといえよう。

 平井社長は、自転車、カメラ、鉄道模型、ラジコンと多趣味で、特に自転車は休日に数十kmも走るほどの入れ込みよう。この情報から推察すれば、心身ともにワークライフバランスはとれていたようだ。あえて過去形で「とれていた」と表現したのは、CEOに上り詰めた平井氏へのプレッシャーが、それまで以上に大きくなっているからだ。現在のソニーは、過去の栄光が語り継がれるだけの企業になるか、それとも一皮も二皮も剥け、新しい姿に衣替えできるかの瀬戸際にある。その重圧を受けている平井社長のワークライフバランスは、ワークのほうに大きくシフトしているはずだ。シフトどころか、ワークが100%であって然りだろう。

相次ぐ事業整理と人員削減

 すでに報道されている通り、ソニーは累積赤字が7000億円超となっているパソコン事業を投資ファンド・日本産業パートナーズへ今年7月をメドに譲渡する。また、14年3月期で10期連続の赤字となる見通しのテレビ事業も同じく7月に分社化する。ソニーは13年3月期に国内外で1万人の人員削減を行ったが、14年3月期で1100億円の連結最終赤字に転落する見込みであることから、さらに15年3月末までに国内1500人、海外3500人の人員削減を計画している。現在、約14万人いる社員数をどこまで減らすのかが注目されている。

 ソニーが再建の切り札として位置づけているのが、スマートフォン(スマホ)をはじめとする「モバイル」、「ゲーム」、そして画像センサーやデジカメなどの「イメージング」といったコア3事業である。だが、これらの市場も安穏としていられる環境ではない。世界3位を狙うスマホ市場は、競争がますます激化している。パソコン大手のレノボがグーグルからモトローラ・モビリティを買収したのをはじめ、2500円スマホも出現するなど、中国メーカーの台頭で価格破壊が起こるかもしれない。アップルやサムスンといったグローバル2強も伸び悩んでおり、今日の勝者が明日の勝者であるとは誰も保証できない。

 プレイステーション4(PS4)の好調な滑り出しで話題を呼んでいるゲームも、市場の中心がスマホゲームやクラウドゲームに移行する中、コンソール型(据え置き型)のソニーモデルがどこまで競争力を維持できるか予測し難い。そもそも、ゲームは任天堂の成功を見て、二匹目のドジョウを狙い参入した、ソニーらしくない後追いビジネス。任天堂の衰退を見るにつけ、ソニーも小手先の改良だけでゲーム・ビジネスに固執していると、衰退でも任天堂の後追いになりかねない。

 イメージングでソニーは、スマホ向けの画像センサーの需要増大に期待をかけている。現在、高機能製品に特化して高収益を上げているからといっても、価格競争が激しさを増している市場だけに、セットメーカーの強い価格下落要求を突きつけられるかもしれない。部品サプライヤーとして、いかに高い交渉力を持てるかがカギとなる。おまけに浮き沈みが激しい市場環境だけに、当たった時は大きいが、低迷した時は大打撃を受ける、半導体大手が経験してきた轍を踏む可能性もある。その対策としては、スマホ以外の新たな市場を自ら開拓していかなければならない。すでにオリンパスと提携している医療面での活用が考えられるが、パナソニックも力を入れている自動車市場と同様、つわもの揃いの厳しい競争環境になりそうだ。

新主力事業創造という課題

 平井社長は「事業ポートフォリオの組み替えは常にやっていく」と語っている。今期来期と同様、700億円程度の費用をかける構造改革は、その後も続く可能性が高い。だが、これはあくまでも刺身のつま、にしたい。今ソニーに最も求められているのは、次世代の屋台骨となる新事業の創造である。

 近年、「ブルー・オーシャン」(血のない青い海)が注目されている。これはビジネスにおいて競争のない未開拓の市場を体系的に切り開いていく経営戦略論であり、フランスのビジネススクール・INSEADのW・チャン・キム教授とレネ・モボルニュ教授が体系化し、05年に『Blue Ocean Strategy』として上梓した。ちなみに「ブルー・オーシャン」に対し「レッド・オーシャン」(血に染まった赤い海)は、過当競争が繰り広げられている既存市場を意味する。つまり「ブルー・オーシャン」という概念が示唆するところは、「最強の競争力とは、競争しないことだ」というものだが、現実的にはほとんどの企業にライバルが存在する。競争しない有利な状態になるには、表だけではなく裏を強くしておかなくてはならない。そうしなければ、「働けど働けど楽にならず」といった現象、つまり「レッド・オーシャン」に入り、溺れてしまう。それが今、多くの日本企業が抱えている悩みではないか。このような状況に置かれた結果、日本企業は従業員に「愛」を注ぐ余裕がなくなり、安易に人員削減を行うようになってしまった。従業員は会社に「愛」を感じられず、新事業が創造されないという悪循環に陥っている。

 この負のサイクルから脱出するためにも、日本企業は経営者だけでなく従業員も「ブルー・オーシャン」を泳げるようにならなくてはいけない。できれば、既存事業が好調なうちに新事業をいくつか用意しておくことが望ましい。技術革新、市場の変化が短期間に急変するこの時代においては、現在好調な屋台骨が、いつがたつくかわからない。それに、がたつき始めてから手を打っても遅すぎる。

「会見で記者から嫌な質問をされても一向に動じない。常に平常心を保っているようです。力量は未知数ながら、精神的なタフさでは(元社長・会長の)出井伸之氏より上だと思います」と平井社長を評しているジャーナリストもいるが、人のストレス耐性などは、記者会見の表現だけでわかるようなものではない。プレゼンテーションやインタビュー対応などの表現は、努力や工夫次第でどうにでもなるが、身体は嘘をつかない。平井社長の急速な白髪化は、その一例だろう。

 平井社長の増えた白髪を見ていると、かなり大きなストレスを感じていると思われる。多くの日本人は「帰国子女=日本人離れ=合理主義者」といった単純化した図式で見がちである。しかし、平井社長も趣味で人員削減を行っているわけではないだろう。リストラの対象になった従業員には、憎き鬼経営者に映るだろう。一般従業員よりはるかに高い社会的地位と報酬を得ているだけに、その恨みは増幅するに違いない。基本的に人員削減に反対である筆者は、ソニーの従業員でリストラ対象になっていれば同様の感慨を抱くかもしれない。

 しかし、あえて平井社長の立場に立ち考えてみれば、一般人には計り知れない苦悩があるに違いない。高い社会的地位と報酬を得ているからこそ、矢面に立たされる。経営を経験したことがないジャーナリストやアナリストは、偉そうなことを言っていれば事は済むが、経営者はそれでは許されない。重大な苦難に直面したとき、耐え難きに耐え、着実に目前の問題を解決し、新事業を構想し明るい未来を切り拓いていくことが、経営者に課されたミッションである。

 ソニーは今後、環境が好転して一時期は業績が回復するかもしれが、既存の3コア事業で勝負しているうちは、平井社長のストレスは大して減らないだろう。ワークライフバランスが回復し、自転車を大いに楽しめるようになるには、いち早くブルー・オーシャンを見いだすことだ。
(文=長田貴仁)

長田貴仁

長田貴仁

ビジネス誌「プレジデント」編集部を経て、2005年4月、神戸大学大学院経営学研究科助(准)教授に就任。研究・教育に携わる傍ら、同研究科が設立したNPO法人現代経営学研究所が発行する学術誌「ビジネス・インサイト」の編集責任者を務め、抜本的に改革する。その後、他3大学の社会人MBAや複数の大学の学部でも、客員教授、非常勤講師として教鞭を執ってきた。2013年4月から岡山商科大学に招かれ、15年から18年3月まで2期4年、経営学部長を務めた。日本人学生だけでなく、多くの留学生とも交流を深め、草の根のグローバル化を実践している。所属学会・研究所は、組織学会、日本経営学会、経営史学会、日本ベンチャー学会、企業家研究フォーラム、日本マーケティング学会、日本広報学会、経営行動科学学会、神戸大学経済経営研究所、現代経営学研究所。

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