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プロ野球・日ハム、なぜ「ヒット商品」に?「新商品」としての売り出しと、球団の体質改善

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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 こうした話題性と移転3年目に優勝という成果が出たことで、成功のサイクルが回り始めた。

 つまり親会社のメーカー視点に置き換えれば、「発売年数は長いが、売れゆき不振の商品」を「表紙も中身も変えた新商品」に全面刷新して世に送り出し、大成功したことになる。

●新商品は発売日から改良対象

 業績好調のメーカーほど、新商品を出した後の「磨き方」も意欲的だ。新商品発売は、研究・生産・商品開発・マーケティング・販売・物流などの関係部署にとっては、ゴールと同時にスタート。お客の反響と向き合いながら、発売した新商品を手直しすることを考える。
 
 ただし、そのためには「軸足」が大切。その共通認識のもとに、改良を進めるキーパーソンがいないと磨くことができない。

 ファイターズは北海道移転を決めてから、球団の体質改善を目指した。それまでは「選手にやさしく、なかなかクビにならない」と言われていた球団。現在は野球解説者を務める当時の主力選手が、オフの契約更改時に球団の提示年俸額に不満を持ち、交渉の場から出てくるなりテレビカメラの前で自分のバッグを叩きつけたこともある。

 このような「甘え」を許さない意識改革も始め、新球団の軸足に反映したのだ。

 球団幹部は、北海道移転時の企業理念を「スポーツ・コミュニティ」とし、行動指針に「ファンサービス・ファースト」を掲げ、推進した。こうしたスローガンも実際に体験させないと意味がない。地域のイベントにも積極的に選手を出席させて、繰り返し理解させ続けた。

 今では多くのプロスポーツチームが行う活動だが、10年前は当たり前ではなかった。

 特にこれを実践したのは、本場米国のファンサービスを知る2人。当時監督だったヒルマンと、米大リーグから日本プロ野球界に復帰した新庄剛志だ。

●大騒動の中でもファンの心をつかんだファイターズ

 ファイターズが北海道で新シーズンを迎えた04年は、オリックス・ブルーウェーブと近鉄バファローズ(当時のチーム名)の合併問題から火がついた「球界再編」「プロ野球のストライキ」というゴタゴタが起きた年だ。

 大きな社会問題となり、プロ野球のファン離れが危惧されたこの年に、ファイターズの「ファンサービス・ファースト」として象徴的なシーンがあった。
 
 ヒルマン監督はストライキで試合中止が決まると、自ら率先してファンのためにJR札幌駅や札幌ドームでサイン会を行った。札幌駅前でのサイン会では3時間半にわたり、途中で腱鞘炎になりながらも、約1000人のファンにサインをし続けた。

 別の日に新庄はチームメイトと相談して、守備練習時、1970年代に人気だったテレビ番組『秘密戦隊ゴレンジャー』(NETテレビ/現・テレビ朝日系)のマスク姿でグラウンドに登場するなど奇想天外な演出を続け、集まったファンを楽しませた。
 
 こうして「新しもの好き」な北海道のファンを取り込み、東京時代に比べて観客動員数は大幅に増えた。女性ファンも多く、特に中高年女性から高い支持を得た。

 一方で、球団は選手に対して、プロ野球選手として節度ある振る舞いを求め、時に厳しく接した。現在は主砲に成長した中田翔は、「走塁での怠慢プレーや日頃の言動も含めて、球団から最も怒られた選手」(担当記者)だ。

 そんなファイターズも正念場を迎えている。昨年最下位になったチーム成績だけではない。大ヒット商品でも、お客への対応を間違えると、あっという間にソッポを向かれてしまう。次回はそうした現状を紹介していきたい。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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