●国際競争力強化に向けた戦略づくり

 では今後TPPをめぐる動きはどうなるのかというと、「交渉に時間がかかっても農業分野の関税は現状のそのままで決着する」と楽観視できない状況です。堅守したくても難しい、ということもシナリオとして知っておくべきです。難しいならば交渉の間に(あるいは実際に関税が引き下げられるまでの間に)、どのようにしたら国際競争力が高まるのか真剣に考えて戦略をつくり、世界に勝てる産業に変えていくことが、ビジネスの観点からは選ぶべき選択肢なのだと思います。

 なお、TPPの非関税障壁撤廃の中には、衛生管理の水準を国際貿易レベルに上げるということも入ってきます。例えば水産加工施設に関しては、アメリカはHACCP(危害分析・重要管理点手法)普及率100%に対して、日本では20%程度です。こういった遅れた部分を限られた時間の中で改善していくことも重要です。改善すべき部分はたくさんあります。しかし改善できるものである以上、早急にその準備を今始めることが大事なのであって、TPP反対運動にすべての費用や時間、エネルギーをつぎ込むのは極めてリスキーなのではないでしょうか。

 ちなみに、そもそも実質関税が最大3.5%の水産物はすでにほぼ自由化品目なので、水産業はこれから世界で十分に戦うことができる産業です。オンリーワンである日本酒、その原料である酒米、味噌や醤油や緑茶、ミカンやリンゴなど、勝負できる商品はたくさんあります。こういった分野で世界市場を開拓していくためには、商社任せだけではない、「包括的マーケティング」が必要になってきますが、日本企業がすでに持つノウハウを集めていくことができれば、むしろ地方が経済を引っ張る存在になると思います。守りに入るのではなく、攻めなければならない時期に来たということでしょう。
(文=有路昌彦/近畿大学農学部准教授)

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