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ソフトバンク、窮地の米国進出で注目集める“次の一手” 米政府の反対と競合台頭の誤算

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●Tモバイルを買収できなければ、米国進出失敗の危機感

 前出の携帯電話業界関係者は「競争が熾烈な米携帯電話市場が原因。それは13年の米携帯電話の加入件数を分析すれば明白」と、次のように説明する。

 13年の米携帯電話新規加入件数は約1200万件に上るが、問題はその内訳にある。

 全米にLTE(次世代高速通信)網を整備している業界首位のベライゾン・ワイヤレス(以下、ベライゾン)が、新規加入の約36%を占めた。これは業界の想定内だったが、想定外だったのがTモバイルだった。同社は「猛烈な安売り」で約34%ものシェアを獲得した。

 これで追い込まれたのが、同2位のAT&Tモビリティ(以下、AT&T)と同3位のスプリントだった。

 ソフトバンクがスプリント買収を発表した12年末現在、同社の総契約件数は約5530万件。約3338万のTモバイルに対し、約2200万件近い大差をつけていた。しかし、TモバイルはメトロPCSを買収した効果もあり、総契約件数を13年末に約4668万件まで伸ばした。一方のスプリントは5505万件と、若干ながら減らしている。つまり、たった1年間で3位と4位の差は837万件に縮まってしまった。

 今年は、AT&TとTモバイルが競って勢いの弱まっているスプリントの加入者に対して安売り攻勢をかけてくるのは必至。Tモバイルが昨年と同じペースで契約件数を伸ばせば、来年はスプリントが4位に転落するは誰の目にも明らかだ。そうなれば、ソフトバンクは買収効果どころか、逆に重い荷物を背負うことになる。

 前出の業界関係者は「スプリントが4位に転落すれば、Tモバイルがスプリントを買収・合併するという、かねてから噂されているシナリオが現実味を帯びてくる。そんな事態になれば、ソフトバンクはスプリントの経営関与権を失い、米国進出は失敗する。孫社長は、そんな危機感に駆られている」と指摘する。

●米政府当局の反対で、Tモバイル買収は困難

 そこで気になるのが、ソフトバンクのTモバイル買収の可能性だが、これが困難を極めている。問題はTモバイルの親会社のドイツテレコムとの交渉ではなく、FCC(米連邦通信委員会)や司法省など米政府当局の反対に遭っているからだ。

 例えば、司法省反トラスト局のウィリアム・ベーア局長は今年1月30日、米紙「ニューヨーク・タイムズ」のインタビューに対し「(米携帯電話業界再編については)いかなる提案も反トラスト局の厳しい審査を受けることになる」と述べ、暗にソフトバンクのTモバイル買収に反対の意思表示をしている。

 またロイター通信によると、2月上旬、孫社長はFCCを訪問、トム・ウィーラー委員長と面会してTモバイル買収を打診した際も「FCCは反対」との意思を示されている。

 そこで孫社長が次に取った策は、米国の世論に訴えることだった。

 孫社長は3月11日にワシントンを訪れ、ワシントン商工会議所での講演、PBS(米公共放送)のトーク番組出演、CNBCのインタビュー番組出演など、精力的に動き回った。孫社長が訴えたのは次の3点だった。

(1)米国のLTE(高速通信サービス)ユーザーは、日本のユーザーに比べ「ギガバイト当たり1.7倍高い」料金を払っている
(2)日本に比べ米国の携帯電話通信網の質は低く、しかも技術が停滞気味だ
(3)その原因は上位2社がモバイルブロードバンドを寡占しているからだ

 孫社長は講演やインタビューの場で、Tモバイル買収について直接的には触れなかった。だが、上記3点を解決するためには「スプリント単独では難しい。米国ユーザーに高品質・低価格なLTE環境を提供するためには、ネットワークカバー的にも契約数的にも携帯電話会社の規模拡大が必要だ。また2強体制より3強体制のほうが健全な競争ができる」との論法で、Tモバイル買収の必要性を間接的に訴えた。

 ソフトバンク関係者によると、孫社長は今後もメディアを通じて「3強体制による健全競争の必要性を米国世論に訴え続ける」という。しかし「米携帯電話業界内では、現在の4社体制で健全競争ができているとFCCも司法省も判断している以上、ソフトバンクがいくら世論工作をしても、当局がスプリントとTモバイルの合併を認めることは難しい」(前出・業界関係者)との見方が支配的なようだ。

 しかし裏を返せば、孫社長が一番危惧している「Tモバイルによるスプリント買収」という最悪の事態も、当面は可能性が低くなる。孫社長は米国世論喚起作戦を続け、従来通りTモバイル買収工作を進めるのか、それとも買収をあきらめ、スプリントの経営立て直しに舵を切るのか、日米の業界関係者が「孫社長の次の行動」に注目している。

 しかし、Tモバイル買収、スプリント経営立て直し、いずれにしてもソフトバンクは今後も米国事業に巨額の資金を必要としていることに変わりはない。
(文=福井晋/フリーライター)

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