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緑茶、なぜ輸出額1.5倍に?各社商品開発で工夫、政府も日本食ブームとセットで後押し

文=千葉優子/ライター
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緑茶、なぜ輸出額1.5倍に?各社商品開発で工夫、政府も日本食ブームとセットで後押しの画像1「Thinkstock」より
 5月といえば、「夏も近づく八十八夜~」の歌い出しで知られる童謡「茶摘」が思い出される季節。八十八夜は立春(2月3日)から数えて88日目で、今年は5月2日がその日に当たる。この頃から気候が安定するため、八十八夜前後に摘まれたお茶は、一年のうちで最もうま味があり、不老長寿の縁起物といわれるほど珍重されてきた。

 しかし、茶葉としての緑茶は需要が低迷している。静岡県内の栽培農家によれば、「生産者の高齢化が進み、やむなく耕作を放棄する茶園が増えている。また、中元や歳暮などの贈答品で緑茶を贈る習慣が減り、単価は下落傾向にある。単身者や若い世代は急須を持たない人も多く、生活スタイルの変化が与える影響は大きい」と嘆く。

 ペットボトル入りのお茶飲料は一大マーケットを形成しているが、原料の緑茶は低価格品が主流のため、中国産との価格競争が激しく、ほとんど利益が出せない状況だ。これから夏にかけて麦茶を飲む人が増え、「仕事の合間はコーヒーや紅茶が定番」という人も多いため、緑茶が飲まれる機会は意外と少ない。

海外で「健康食品」として人気高まる緑茶

 だが、こんな朗報もある。海外に目を転じれば、世界的な健康志向や日本食ブームを追い風に、日本茶の需要は高まっている。財務省の貿易統計によると、2012年の緑茶の輸出額は約50億円と、5年前の約1.5倍になっている。国・地域別では、米国が全体の約半数を占めて1位。以下、シンガポール(15%)、ドイツ(9%)、台湾(5%)、カナダ(5%)と続く。主成分であるカテキンにコレステロールの低下やがん予防などの効用がある点、砂糖やミルクを入れずに飲むためヘルシーである点などが、輸出拡大を後押ししている。

 国内茶業が海外に活路を見いだすには、その国の生活スタイルや嗜好に合わせた商品開発が求められる。そうした中、「3人に1人が肥満」というアメリカに、ドリップ式緑茶を提案するのが静岡県島田市の杉本製茶だ。

 海外での緑茶はティーバッグが一般的なため、お湯に浸す時間の調整が難しく、緑茶本来のおいしさを知らない外国人も少なくない。そこで同社は、08年から静岡県農林技術研究所・茶業研究センターと協力し、うま味成分のアミノ酸や渋味成分のカテキンの濃度が、急須で入れた濃度と同じになるドリップ式の緑茶「Drip Tea」を開発。ドリップの習慣のないアメリカ人に受け入れられるために、お湯を注いで1分で抽出できるようにした手軽さも奏功し、評判は上々だという。

 また、粉末タイプの健康茶で、アジア勢に売り込みをかけるのが茨城県猿島郡の野口徳太郎商店だ。大学発の特許技術を採用し、栄養価の高い茶の種子と茶葉を粉末にした「茶の種子(たね)茶」シリーズは、お湯などに溶かして飲めるため、急須が不要で茶がらも出ない。同社は海外の商談会に参加しながら、シンガポールやタイへの進出を狙う。

 見逃されてきたロシア市場に目をつけた企業もある。東京の総合商社・イービストレードは、ロシア向けに静岡産緑茶「生静岡茶」を輸出する。農林水産省によれば、ロシアの茶消費量は年間約19万5000トンで、中国、インドに次ぐ世界3位。そのほぼすべてを輸入に頼っており、うち6割は中国産だ。同社によると、ロシアの緑茶は赤みのある発酵茶が大半で、味は紅茶とさほど変わらないという。そのため、鮮やかな緑色の日本産にいかになじんでもらうかがカギとなりそうだ。

日本食とのセット売りで輸出拡大を狙う

 政府も農産物輸出を成長戦略の柱の一つに据え、緑茶の輸出に前向きだ。農林水産省は「ブランド力がある日本茶は進出しやすい」とし、お茶の輸出額を20年までに現在の3倍にすることを目標に定めた。しかし、達成するのは容易なことではない。対EUでは残留農薬問題や放射性物質にかかわる規制により、11年の東日本大震災以降、輸出量が減少。国ごとに異なる農薬基準や安全性の問題、安価な中国産緑茶との差別化など、クリアすべき課題は多い。

 TPP(環太平洋経済連携協定)の影響はどうか。アメリカとカナダは緑茶の輸出に対する関税率が0%であること、シンガポールやマレーシアなど交渉参加国の多くが日本とEPA(経済連携協定)を締結していることから、関税撤廃が与える影響は限定的といえそうだ。しかし、TPPによって他の農産物輸出が拡大すれば、日本食ブームと相まって緑茶はより受け入れられやすくなる。農林水産省も緑茶の輸出については、日本文化や日本食とのセット売りを提案している。

 産地や銘柄をアピールしたい茶業も多いだろうが、日本産緑茶の味わいや色味を知らない外国人に浸透させるには、まずは「Japanese Green Tea」として受け入れられるための戦略が必要といえそうだ。明治時代は生糸に次ぐ2番目の輸出品だった緑茶のリベンジなるか。その行方に注目したい。
(文=千葉優子/ライター)

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