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恵庭OL殺人事件に冤罪疑惑 有罪ありきのずさんな捜査と裁判に、元裁判官も唖然

文=瀬木比呂志/明治大学法科大学院専任教授、元裁判官
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 次に、被害者の携帯電話がそのロッカーに戻されていたことは、それだけでは容疑者と結び付く事柄ではない。また、被害者のロッカーキーについては、伊東書は、6月10日の容疑者宅家宅捜索後に容疑者のバッグのふたが開いており、そこから押収品目録交付書が出てきたことなどから、警察による捏造の可能性が高いという(つまり、警察は、被害者のロッカーから持ち帰っていたキーをその後に容疑者の車のグローブボックスに入れるという偽装工作をしたが、その際、当然容疑者に交付すべき押収品目録交付書を容疑者に交付することを忘れてしまった、これが明らかになれば偽装工作がばれてしまう、そこで、やむなく、後の家宅捜索時に容疑者のバッグにしのばせた、という推理である。袴田事件で警察がズボンの端布を袴田氏の自宅から発見したようにみせかけた手口に似ている。前記「g2」の記事参照)。

 タイヤの傷については、容疑者が現場にいたとされるわずか5分間で死体の発見された位置と45cm離れた道路上の車のタイヤに炎の熱により傷が付くことはおよそ考えにくく、被害者の遺品については、昼夜を問わず警察の尾行、張り込みを受けていた容疑者が自宅からかなり離れた森まで遺品を焼きに行くことはやはり考えにくいという(伊東書137頁以下)。

 要するに、以上の情況証拠は、いずれも、それ自体としては薄弱なものである。

●どんぶりを片手で持てない非力な女性が絞殺?

 また、この事件では、死体が燃やされ遺棄されたという現場からも、被害者の携帯電話からも、容疑者の指紋、足跡等が一切検出されていない。現場には死体を引きずった跡もない。車内でタオル様のものを用いて後ろから首を絞めたとされている犯行態様にもかかわらず、タオル等は発見されていないし、容疑者の車には、被害者の失禁を示す痕跡や血痕がなく、その指紋、毛髪等も検出されていない。

 加えて、容疑者は体格、体力において被害者にかなり劣っており、ことに、生まれつき右手の薬指と小指の発達が遅れた短指症の障害があるため手の力が弱くてバランスも悪く、右手の握力も19kgと著しく弱い(ラーメンのどんぶりを片手で持てないほど弱い)ため、検察主張のような方法による殺害が可能であるかは、きわめて疑問である。

 第一審判決は、容疑者が「被害者を車両助手席に乗せて何らかの方便で油断させながら後部座席に移動して」としているが、狭い車両内でどのような移動を行ったのか不明であり、また、「殺害方法や被害者の抵抗方法の如何によっては、非力な犯人が体力差を克服して自分に無傷で被害者を殺害することは十分に可能である」としているが、民事系裁判官の感覚からしても、無理やりの強引な物言いであるように感じられる。小柄な女性(絞殺だけで精根尽きているはずであろう)が、一人で、自分よりも重い死体を、間髪を入れずに抱えて車両外に下ろした(したがって、車内にも車外にも痕跡が残らなかった)との認定も、同様にきわめて強引である。

 さらに、この事件では、検察は、容疑者がガソリンスタンドに立ち寄った時刻について、実際には、レシートに印字されていた午後11時36分よりも早い11時30分43秒であったことを示すビデオテープが存在したにもかかわらずそれを隠しており(この6分の相違は、本件では非常に重要である)、事件現場の近くに停車している2台の車を見たという主婦のAさんの供述調書も隠していた。Aさんは、11時6分過ぎころと11時20分過ぎころに2台の車を見、2回目のときにはうちの1台の屋根越しに赤い光(炎)を見たと、第一審における審理の終盤に、公判廷で供述した。この2台の車は、死体が燃える状況を見届けていた真犯人たちのものである可能性がある。第一審判決は、これについて、「<無関係な第三者が>ゴミ焼き等による炎上として<そのように誤解して>単に傍観していた」と推認する。しかし、そんな時刻に人気のない雪原でゴミを焼く人物がいるはずはないし、不審な炎を、「ゴミ焼きによる炎と誤解しつつも手をこまねいて傍観し続ける」酔狂な「第三者」がいるのかもきわめて疑問であろう。

 また、被害者の焼死体は内臓まで炭化し、体重が約9kgも減少しており、検察主張のように容疑者の購入した10リットルの灯油で、また、「容疑者は5分間だけ現場にいた」という第一審判決認定の事実関係の下に、焼かれたものとは考えにくく、そのことは、豚を用いて行われた警察、弁護側双方の焼毀(しょうき)実験によっても裏付けられており(いずれの実験でも、豚の内部組織は生のままであり、また、炎の強さは着火後1分以内に最大になった)、被害者の遺体を扱った納棺業者は、「灯油を何回もかけ時間をかけてじっくり焼いたか、ガソリンかジェット燃料で焼いたように思われる」旨を弁護士に供述している。さらに、被害者の遺体の取っていた姿勢は、一般的焼死体とは異なり足を大きく開いた強姦死体に似た姿勢であり、ブラジャーのワイヤーも大きくずれており、また、陰部と頸部の炭化が特にひどく、強姦殺人の証拠隠滅をうかがわせる状況であった。にもかかわらず、司法解剖の際に、強姦の有無については調べられていない。

『絶望の裁判所』 本書は、一人の学者裁判官が目撃した司法荒廃、崩壊の黙示録であり、心ある国民、市民への警告のメッセージである amazon_associate_logo.jpg

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