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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」第19回

鋭い商品、なぜ売れない?“出来の悪い”試作品がファンを獲得?日米企業比較で検証

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
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「ロングテール」という言葉を提唱したことで知られるクリス・アンダーソン氏(米雑誌「Wired」元編集長)によれば、最近ソニーと米国ベンチャーPebbleが相次いで第二世代のスマートウォッチを発売したが、最初から熱狂的にユーザーの支持を得ているのはPebbleのほうだという。その理由は、Pebbleは開発過程で多くのユーザーを巻き込んでフィードバックを得てきたこと、そしてPebble自体がプラットフォームをオープンに提供して多くの開発者を参加させているところにあるというのだ。

 振り返ってみればソニーのスマートウォッチSW2の開発手法のほうが伝統的であり、かつ冒頭の「鋭いが売れっ子ではないコンサルタント」的である。つまり、開発者が世の中を驚かせてやろうという野望をもって、秘かに新商品開発に没頭する方式だ。実際にソニーの開発者にはこのような傾向がある。その結果誕生する画期的な新商品がことごとく討ち死にし、そうではなく出来が悪い試作品だと思われていたライバルの商品が、第二世代の改良された商品が発売されると、たくさんのファン層、サポーター層を獲得する。そして、そちらのほうが圧倒的に売れる商品になっていく。

●米テスラはなぜ人気?

 電気自動車の世界では技術的には日産自動車が先を行っているかもしれないが、評判的には米シリコンバレーのテスラモーターズのほうが先行しているように感じる。テスラは日産のリーフのように、最初から重要の大きいワゴンタイプの乗用車ではなく、新しい商品・サービスを好み、発売初期に購入する、イノベーターやアーリーアダプターが多いスポーツカーを初期製品として投入した。

 発売当時、筆者もシリコンバレーでテスラのロードスターを試乗してみて感じたが、運転席が地面すれすれで、電気自動車らしく加速性能が良く、表現は悪いが、カリフォルニアのハイウェイを疾走するには最適なおもちゃだと感じた。車好きなセレブなら、3台目のドライブ専用車として1台持っておきたい、そんな車なのだ。

 だからこそ、電気スタンドのインフラが普及せず走行距離も短く、電池の価格が高いなど、さまざまな問題がある時期にもかかわらず、アーリーアダプターの顧客層が購入するのだ。そして、彼らは喜び、製品としての改良点をテスラにフィードバックし、一方でその魅力をフェイスブックやツイッターを通じて拡散させていった。同社の実用的なセダンが発売される頃には、テスラのファン数が日産のそれを上回るようになっていく。実際、アメリカで最も裕福な富裕層が住むといわれるスーパージップ(米国の郵便番号)上位の地区では、人気の乗用車ブランドは伝統を持つメルセデスベンツとテスラだという。

 このように、現代は鋭い開発者が求められる時代ではなく、開発過程でファンやサポーターを増やせる開発スタイルが求められる時代なのである。
(文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

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●鈴木貴博(すずき・たかひろ)
事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『NARUTOはなぜ中忍になれないのか』『「ワンピース世代」の反乱、「ガンダム世代」の憂鬱』(ともに朝日新聞出版)、『戦略思考トレーニング』(日本経済新聞出版社)、『カーライル 世界最大級プライベート・エクイティ投資会社の日本戦略』(ダイヤモンド社)などがある。

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