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残業代ゼロルール、産業界の真の狙いは?サービス残業と「名ばかり管理職」増加の懸念

文=溝上憲文/労働ジャーナリスト
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 もう一つ、前述した経済界の「働く時間と場所を自由に選べるために、とくに女性の仕事と育児の両立が可能になる」との理由も眉唾ものだ。労働基準法の労働時間規制はあくまで1日8時間を超えてはならないとしているに過ぎず、それ以下の時間で働くことを規制していない。育児が忙しく5時間で帰りたい女性がいれば、法律を変える必要もないし、会社の裁量でなんとでもできる。

 現実に1日5時間ないし6時間の短時間勤務制度を設けている会社も多い。しかし、実際に支払われている賃金はフルタイムで8時間働いた場合の5時間分の均等割でしかない。つまり、成果ではなく時間管理に基づいた賃金を支払っているのだ。「時間ではなく成果で支払う」というのであれば、5時間しか働かなくても成果しだいでフルタイムと同じぐらいの給与が出る仕組みに変えてもよいはずであるが、そうはなっていない。

●日本の管理職の8割は「名ばかり管理職」?

 現在、事務職全員を規制から外せば長時間労働が増えるという批判を受けて、進行中の見直し案は対象者を絞る方向で検討されている。安倍晋三首相が議長を務める政府の産業競争力会議は対象者を「経営企画、商品開発、ファンドマネージャーなどの裁量度が高い管理職候補者と専門職人材」にするように求めている。専門職人材については、年収1000万円以上という条件を提示している。

 管理職候補者となれば、大学卒の総合職は「幹部候補」の位置づけをしている企業も多く、対象者が広がる可能性もある。年収1000万円を超える人は雇用者の1%もいないが、実は会社にとっては隠されたもう一つの効果がある。

 労働基準法では「管理職」(管理監督者)には残業代を支払う必要がないとされている。そのため部下を抱えるライン管理職ではなく、肩書だけの部下なし管理職を置いている会社は多い。要は「名ばかり管理職」だ。

 IT企業の人事課長は「管理職のうち本当の管理職と呼べるのは2割ぐらい。残りの8割は法的には恐らく管理職と呼べないだろう」と明かす。

 残業代を払わなくてもよい法律上の「管理監督者」とは「経営者と一体的な立場で仕事をしている人」。つまり、経営者に代わって同じ立場で仕事をしている人であり、単に上司の命令を部下に伝達する人は管理監督者ではない。労働事件に詳しい弁護士は「在職中は残業代を払え、という管理職はさすがにいないが、リストラされて退職後に未払い残業代を請求する訴訟が徐々に増えている。しかも裁判所はほとんど請求を認めている」という。

 会社にとっては裁判に訴えられたら、残業代を払わなくてはいけない“爆弾”を抱えているようなものだ。仮に年収1000万円以上の社員が残業代支給の適用除外になれば、法的には支払い義務のある部下なし管理職も対象になる。産業界の要望の裏には、こうしたリスクを封じ込めたいという狙いもあるのかもしれない。
(文=溝上憲文/労働ジャーナリスト)

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