ビジネスジャーナル > 企業ニュース > 伊藤園、むぎ茶シェア拡大したCM戦略
NEW
「ここが肝だよ! テレビCM戦略」 第6回

伊藤園のむぎ茶、16年間のシェア拡大を実現したCM戦略 常に新市場を獲得

文=鷹野義昭/CM戦略アナリスト・マーケティングディレクター
伊藤園のむぎ茶、16年間のシェア拡大を実現したCM戦略 常に新市場を獲得の画像1「健康ミネラルむぎ茶」のCM(伊藤園)

 20年以上にわたり1000本を超すテレビCMを中心にマーケティング戦略立案に携わってきた鷹野義昭氏が、新たに年間2万本以上オンエアされるといわれるCMについて、狙いやポイントはどこにあるのかなど、プロの視点からわかりやすく解説する。

 今年も、間もなく本格的な暑さが到来します。暑さといえば、欠かせないのは水分補給です。外出する際に水分を携帯するのに便利で手軽なのは、なんといってもペットボトル飲料です。

 さて、多くの飲料のテレビCMが流れるこの季節、どのCMが印象に残っているでしょうか? また、店頭で商品を手に取る際に、頭に思い浮かぶCMはあるでしょうか?

16年目を迎えた定番のむぎ茶CM

 2013年の統計資料によると、日本では年間1人当たり159リットルを超える清涼飲料を消費しているそうです。これは、500ミリリットルのペットボトル換算で318本分に相当します。平均して、ほぼ1日1本購入している計算です。

 その市場規模は、年間3兆6800億円にも達します。各企業が躍起になって、飲料のCMを流しているのもうなずけます。ちなみに、13年8月からの1年間に、関東・関西キー局で新たにオンエアされた清涼飲料に関するCMは946本に上ります。

 さて、毎年この季節になるとオンエアされるお馴染みの「健康ミネラルむぎ茶」(伊藤園)のCM。このシリーズCMにお笑いタレント・笑福亭鶴瓶氏が起用されてから、今年でなんと16年目を迎えます。「むぎ茶」と聞いたら彼を連想してしまうほど、そのキャラクターはすっかり定着しています。

 このシリーズCM、オンエア当初は鶴瓶氏と子供たちがお祭りで「えらい暑ちゃ! えらい暑ちゃ!」と元気に踊るだけの単純明快な内容でした。

 当時は、まだペットボトルのむぎ茶が世の中にあまり定着していなかったので、「ペットボトルのむぎ茶が販売されている」ということをインパクトのあるCMで記憶に残すことが最も重要な課題だったのです。

 こうして存在認知を高め、その次には「ペットボトルのむぎ茶なんて、おいしくないのではないか」という疑念の払拭をすることが大事になってきます。

 そこで、07年からCMに現れる巨大な「やかん」が、重要な役目を果たします。健康ミネラルむぎ茶のこだわりは、焙煎方法を追求ことで可能になった香ばしさと甘いコク。「やかんで煮出した昔ながらの味わい」を象徴する大きなファクターなのです。

 こうしたCMの継続展開で企業側のこだわりがしっかりと伝わり、多くの消費者の心をとらえ、10年には同商品のむぎ茶飲料市場におけるシェアが5割を超えました。

新たな市場を獲得

 その鶴瓶氏のCMシリーズですが、11年頃、以前のインパクト重視のCMから、よりメッセージ性を重視した表現へとシフトし始めました。それは、「ミネラルの補給ができる」という点を前面に押し出したCMです。

伊藤園のむぎ茶、16年間のシェア拡大を実現したCM戦略 常に新市場を獲得の画像2

「味」だけで訴えるのではなく、ミネラル補給が必要不可欠な運動時にも手に取ってもらおうという狙いです。つまり、ペットボトルむぎ茶市場での一定のシェアを獲得した後、シチュエーションを拡大し、本来の茶系飲料の枠を飛び越え、スポーツドリンク市場の獲得を目指したのです。

 こうしてむぎ茶飲料市場は13年までの5年間で310億円から450億円と、140億円もの大きな伸びを示しました。その中で、「健康ミネラルむぎ茶」のシェアはさらに6割まで伸長しました。

 しかし、いくらこのように戦略的なCM構成ができていても、店頭で商品を手に取ってもらえなくては意味がありません。「健康ミネラルむぎ茶」のパッケージには、ハッピを羽織った鶴瓶氏の写真が掲載されています。これを見れば、すぐにCMを思い出すことができます。また、CMでも大きくパッケージが提示されており、うまくリンクさせることができているといえます。

 さらにパッケージには、「運動をする時も」「お酒を飲んだ時も」などと表記し、購買時の心理的ニーズをしっかりと捉えています。

訴求内容の変遷

 16年のシリーズCMにおいて、訴求内容は少しずつ変化しています。

伊藤園のむぎ茶、16年間のシェア拡大を実現したCM戦略 常に新市場を獲得の画像3

 インパクト重視からミネラル含有という内容理解訴求へと移行し、加えて最近は、もう一つの特徴であるカフェインゼロということもナレーションで語られています。さらに、お祭りだけではなく、土手で紙芝居に集まる子どもたち、夏休みの風景など、さまざまなシチュエーションで描かれるようになりました。

 このことは、単なるむぎ茶市場からスポーツ飲料市場、そして昼夜を問わずいつでも飲める性質を押し出してテーブルドリンク市場へと、商品の対象範囲を拡大させようとしているのです。

 今後も、このシリーズのCMは続いていくことでしょう。その際に付与するメッセージをどこに求めていくのか。また、これまでに培われてきたコミュニケーション資産と対極にある「食傷感」とどう戦っていくのか、今後の伊藤園の戦略に注目していきたいところです。
(文=鷹野義昭/CM戦略アナリスト・マーケティングディレクター)

鷹野義昭

鷹野義昭

株式会社テムズ代表取締役<CM戦略アナリスト・マーケティングディレクター>
1963年、長野県生まれ。大手広告代理店を経て、90年より現職。テレビCMを中心としたマーケティング戦略立案に携わり25年以上。1000素材を超すテレビCMの戦略策定・分析・広告効果測定の実績を持つ。
主な著書に『CM好感度NO.1だけどモノが売れない謎 ‐明日からテレビCMがもっと面白くなるマーケティング入門‐』(ビジネス社)などがある。近年では、秀逸なローカルCM・地方PR」動画を集めたサイト「ぐろ~かるCM研究所」の所長を務める。

伊藤園のむぎ茶、16年間のシェア拡大を実現したCM戦略 常に新市場を獲得のページです。ビジネスジャーナルは、企業、, , , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!