レコード大賞楯(「Wikipedia」より/FlickreviewR)
今回は、星野氏が本書内で提示した問題が、なぜマスコミでは取り上げられないのかなど、メディアの“芸能界タブー”について語ってもらった。
●マスコミが触れたがらない芸能界のタブー
–本書に対する周辺の反応はいかがでしたか?
星野陽平氏(以下、星野) 本書はインターネット書店でもリアル書店でも品切れが続出し、第3刷が決定しました。ネットでの書評を見ても評判は上々で、手応えを感じています。ただし、今のところ、本の存在がネットの世界でしか広がらないというもどかしさもあります。
–マスコミでは取り上げられないということですか?
星野 本書を出版する際、パブリシティのため、いくつかマスコミを回ったのですが、なかなか厳しい反応でした。ある担当者には、「自分は面白い本だと思うけど、上司が渋い顔をする」と言われましたし、別のメディアでは「社内の別の編集部から横やりが入るから、本を紹介するのは難しい」とも言われました。本の帯に「日本最大のタブー」と記していますが、それをあらためて確認させられました。
–どうして、芸能界の問題はアンタッチャブルになっているのでしょうか?
星野 簡単にいうと、芸能はキャッチーで大衆受けする半面、メディアからしても、比較的お金になりやすい“商品”なため、利権が絡んでくるのです。そのため、芸能スキャンダルは日常的に氾濫していますが、ある一定レベル以上の情報は規制されて、表に出ない仕組みになっているのです。
–規制されるか否かの線引きは、どのあたりにあるのでしょうか?
星野 芸能プロダクション全体の問題に踏み込むと危険です。特に本書は、芸能プロダクションの生命線に関わるテーマを扱っていますから、マスコミで紹介してもらうのは至難の業でしょう。
私が調べた限り、メディアで最初に「芸能界タブー」が認識されるようになったのは、1971年の「相愛図事件」です。当時の「週刊ポスト」(小学館)が「凄い芸能界相愛図」と題して、イニシャル表記ながら有名芸能人同士の乱れた下半身事情を、作詞家・なかにし礼氏の告発というかたちで掲載しました。ところが、雑誌発売直後になかにし氏は「取材に応じなければ、あなたの私生活を暴く」とポストの記者に脅されたとして刑事告訴し、記者2人が強要罪で逮捕されました。
–その事件の真相は、どうだったのでしょうか?
星野 ひとつ確かなのは、なかにし氏が記者たちを告訴せざるを得ない状況に追い込まれたということです。俎上に載せられたタレントが広範囲にわたり、かつ記事の内容があまりに強烈で、しかも告発者が芸能界内部の人物だったため、業界としてなかにし氏排除で足並みが揃ったわけです。有力芸能プロダクションのほとんどが加盟する日本音楽事業者協会(音事協)がなかにし氏に事情聴取し、さらになかにし氏が所属していた渡辺プロダクションもなかにし氏へ仕事の注文を中止しました。ところが、なかにし氏が記者を告訴した当日、渡辺プロはなかにし氏に作詞を依頼しています。
–「週刊ポスト」側の対応は、どうだったのでしょうか?
星野 音事協は「週刊ポスト」を発行する小学館に厳重抗議し、加盟する芸能プロに対して小学館が発行するすべての出版物の取材を拒否するよう呼びかけました。これをやられると、出版社は潰れてしまいます。結局、逮捕された記者は不起訴処分に終わりましたが、そうした事件が何度も起きるに従って、「芸能界を怒らせると怖い」という認識がマスメディア全体に広がりました。