「Choosing Wisely」のHPより
6月にスタートした出版連動連載の記事『米国医学会が出した「衝撃のリスト」』(日経ビジネスオンライン)が同サイト週間アクセス数トップとなり、人々の医療への関心の高さををあらためて認識する一方、フェイスブックのシェアが10日間で1万7000件まで広がり、ネット上での記事拡散範囲も医療界から学界、行政、経済界など幅広く、関心の幅の広さも興味深い。
そこで今回は、米国で始まった無駄な医療撲滅運動をめぐる裏話を紹介しつつ、手加減のない米国流キャンペーンの背景に何があるのかを探ってみたい。日本の医療政策、医療事業を考える上でも参考になるはずだ。
●「無駄な医療」をおよそ250項目列挙
前出の「衝撃のリスト」が強い関心を集めた理由は、世界的地位のある米国医学会が無駄な医療を認定しているため、信憑性を伴っているからだ。世界の医師が模範とする医学会が団結して公表しているという点が重要だ。米国の医師約60万人のうち8割に当たる約50万人が、所属学会を通してこの「無駄な医療撲滅運動」に参加している。この運動は、「Choosing Wisely(チュージング・ワイズリー)」と呼ばれており、興味深い動きであるにもかかわらず、日本でほとんど知られていなかったのは、英語や専門性の壁のほかに、日本で公然と行われている医療行為を無駄だと示している事例もあるため、進んで紹介しようという人がおらず、既得権の壁のようなものもあったのではないか。
米国内科専門医認定機構財団(ABIM財団)という非営利組織が中心となり、米国に複数存在する医学会に呼びかけ、無駄な医療を挙げている。13年の段階で参加する医学会は71団体を数え、50学会が約250項目を挙げるところまで拡大した。その内容はインターネット上で無料で全項目公開している点が重要だ。誰もが簡単に無駄な医療の中身を見られるようになっている。
「ピルをもらうのに膣内診は不要」
「じんましんができても検査をするな」
「中耳炎で抗菌薬を飲むな」
「超高齢者にコレステロールは無用だから使うな」
など、日本では一般的に行われているような医療行為についても、不要だと認定されているものもある。
筆者がこの米国医学会の動きを知ったのは、13年夏頃、米国不整脈学会が無駄な医療を数え上げていることを知ったのがきっかけだったが、当初は「衝撃のリスト」の持つ価値に気づかなかった。日本にとっても実はかなりのインパクトのある内容を、淡々と落ち着いた文面で発表していたためだ。例えば、前出の「超高齢者にコレステロールを使うな」「じんましんで検査するな」というような内容は、日本で多くの医療機関が手掛けている医療行為を否定する内容になる。そのため、その内容の重要さに時間をかけて気が付き、日本では間違いなく賛否を呼ぶ内容だと想像できたので、和訳して世に問うてみようと思ったのが冒頭の自著出版のきっかけとなった。