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江川紹子の「事件ウオッチ」第8回

冤罪への懸念は払拭できず! 「取り調べ可視化」に抵抗する捜査機関の胸算用

文=江川紹子/ジャーナリスト
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●調書依存脱却に向けて求められる裁判所の役割

 犯罪捜査は、社会の変化や技術の進歩によって、劇的に変化している。今では、事件が起きれば、すぐさま関連場所から防犯カメラの映像が集められ、分析される。サイバー犯罪でなくても、当然のように被疑者の携帯電話やパソコンが解析されるようになってきた。こうした客観証拠は、曖昧な記憶に基づく目撃証言などより、正確な事実認定に役立つ。

 取り調べに関しても、従来の古くさいやり方から脱皮し、進化をさせなければならない。かつては強圧的な尋問を行っていたイギリスでも、可視化導入と共に、心理学の手法を応用するなどして、被疑者から効果的に情報を引き出すインタビューへとやり方を変えた。捜査員には、そうしたインタビューのやり方の訓練を受けさせている、という。

 日本の捜査機関も、今回の可視化の義務化を、むしろ取り調べ手法を現代化させるチャンスと捉えるべきだ。

 可視化は、何も被疑者・被告人にとって有利とは限らない。捜査段階で認めたことを、公判段階で翻しにくくなる。供述態度が悪ければ、それが映像として残されるので、裁判官や裁判員の心証を悪くしかねないなど、被疑者・被告人に不利に働くこともあるに違いない。

 一足先に、特捜部の事件などで全過程の録音・録画の試行を行ってきた検察は、被疑者が逮捕され、起訴される見込みのある事件すべてを対象に、録音・録画を試行することにした。取り調べが適正に行われてさえいれば、録音・録画記録はむしろ有罪の立証に役立つということに気がついたからだろう。

 警察も、義務化された事件だけでなく、できるだけ早く多くの事件で可視化を行い、真実発見に役立ててほしい。

 そのためにも重要なのは、裁判所の役割だ。供述調書の任意性が争われた場合、裁判員対象事件では、録音・録画の記録で取り調べが適正に行われたことを確認しなければ調書を採用しないのに、それ以外の事件では、可視化されていなくても、供述調書をどんどん採用して、その調書に基づいた判断をするのでは、任意性の判断に二重の基準ができてしまう。裁判所が、通常の事件でも、任意性の証明には客観的な証拠を求めるようになれば、捜査機関は法律で義務化されなくても、録音・録画の範囲を広げていくだろう。

 裁判所が、そのような役割をきちんと果たしていくように、ジャーナリズムや市民がしっかり監視していかなければいけない。

 そうすることで、今回の答申は、よい意味での「蟻の一穴」となるだろう。いや、そうしなければならない。(文=江川紹子/ジャーナリスト)

●江川紹子(えがわ・しょうこ)
東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。元厚労省局長・村木厚子さんの『私は負けない「郵便不正事件」はこうして作られた』では取材・構成を担当。クラシック音楽への造詣も深い。
江川紹子ジャーナル www.egawashoko.com、twitter:amneris84、Facebook:shokoeg

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