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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏(7月22日)

話題のサードウェーブコーヒー、「昭和の喫茶店」が復活?フル型、急激活性化する喫茶店業界

文=高井尚之/経済ジャーナリスト
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 HARIOが2005年に発売したのは「V60透過ドリッパー」と呼ぶ器具だ。「布(ネル)ドリップのおいしさと紙(ペーパー)ドリップの手軽さを両立させたもので、コーヒーの粉の量が深くなる円すい形が、豆の旨みをしっかり抽出する」(同社)という。

 だが、発売後しばらくは売れなかった。それが10年頃から米国西海岸で人気に火がつく。きっかけは口コミだった。さらに、コーヒーを淹れる職人であるバリスタの世界選手権「ワールドバリスタチャンピオンシップ」の優勝者が同製品を使っていたことや、人気コーヒーチェーン「Intelligentsia」のような現地のコーヒーロースターが、この器具で淹れるシーンをインターネットに公開して広まったことなども要因となった。

 米国でサードウェーブを牽引した「ブルーボトル・コーヒー」1号店にも、同社の製品が導入されており、ブルーボトルの経営者は日本の喫茶店をベンチマーキング【編註:他社の優良事例を分析し、自社に取り入れること】したという。

 また、サードウェーブコーヒーを掲げる店にはサイフォン式をウリにする店もある。紙ドリップなどに比べて時間がかかることや、味を一定に保つことが難しく、機器のメンテナンスの手間もあり減っていたサイフォン式だが、本格的な淹れ方で来店客をもてなす気持ちも見直されてきたようだ。

●大正、昭和懐古の落ち着く雰囲気

 ここ数年、フルサービス型の喫茶店人気が復活してきた。人気の理由は居心地だ。スタバとドトールが国内店舗数1000店を超え、コーヒー業界では圧倒的シェアを誇っているが、名古屋発のフルサービス型の喫茶店「コメダ珈琲店」も552店舗(14年2月末現在)を数え、急拡大中だ。

 フルサービス型喫茶店の多くは、落ち着ける雰囲気が重視されており、その店づくりのコンセプトの1つに「大正ロマン」や「昭和レトロ」がある。これは喫茶文化が華やかだった時代の内装を再現したものだ。

 どの程度内装に凝るかで異なるが、大正ロマンであれば、焦げ茶色の壁やイスなど、モダン・ガール(モガ)やモダン・ボーイ(モボ)と呼ばれた若者が街を闊歩した時代の雰囲気だ。色合いを抑えることで、ホッとする空間を演出しているのだろう。

 一方、昭和レトロには明確な定義はないが、筆者の肌感覚としては、大正ロマンに続く戦前の喫茶文化と、戦後の高度成長期の喫茶文化の両面があるようだ。

 ちなみに戦前の喫茶店のピークは35年。東京市内(当時)だけで1万500店に達し、働く女給(ウェートレス)は5万人にも上ったという(参考『昭和・平成家庭史年表』<河出書房新社>)。これ以降は戦火が激しくなり、物資不足もあって多くの喫茶店は閉店に追い込まれた。しかし、戦後の高度成長期から再び隆盛を迎えていったのだ。

 最新データにおける国内のカフェ・喫茶店数は7万7036店(09年時点。総務省統計局「平成21年経済センサス基礎調査」より)。店舗数だけ見ると、最盛期である81年の15万4630店の約半数に減ったが、最近は若手店主が次々に開業しており、最盛期の半減=衰退業種ではなく新陳代謝の激しい業界といえる。これからもサードウェーブコーヒーのような、新たな波が業界を活性化させ続けることだろう。

 よく「歴史は繰り返す」といわれるが、サードウェーブコーヒーと喫茶店の復活を見ていると「歴史は進化して繰り返す」という言葉がふさわしいようだ。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト)

●高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント) 
1962年生まれ。(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。
日本カフェ興亡記』(日本経済新聞出版社)、『「解」は己の中にあり』(講談社)ほか、著書多数。
E-Mail:takai.n.k2@gmail.com

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