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江川紹子の「事件ウオッチ」第9回

裁判員の判断をないがしろ? 「求刑1.5倍」判決を破棄した最高裁のメッセージを読み解く

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 この事件を担当したのも、最高裁第一小法廷。しかも、5人の裁判官のうち、交代したのは1人だけで、4人は同じだ。事実認定については裁判員の判断を重視した彼らも、量刑については、公平性も大事にすべき、と注文を出した、ということだろう。

 確かに、似たような事件で、裁判所によって判断が大きく違えば、重い判決を受けた被告人が不公平感を抱く。幼児虐待は重く罰すべきだというのは、市民感覚による問題提起ではあったが、ではどこまで重くすべきか、というコンセンサスが定まっているわけでもない。今後の更正を考える時には、被告人がある程度納得して刑に服することも大切で、公平性やバランスを無視するわけにはいかないだろう。

 また最高裁は、量刑の傾向が変わっていくことを否定しているわけでもない。現に、裁判員裁判が始まってから、量刑の傾向はかなり変わってきている。

 特に、強姦致傷、強制わいせつ致傷などの性犯罪は、裁判官のみの時代よりも明らかに刑が重くなっている。殺人未遂で実刑となる場合、裁判官時代には「懲役5年以下」が一番多かったが、裁判員裁判となってからは「同7年以下」がピークになっている。今回のような傷害致死罪のピークも、「懲役7年以下」から「同9年以下」へと厳しくなった。

 こうした厳罰化の一方で、執行猶予がつくケースも増えている。裁判員裁判となってから、殺人罪で執行猶予がついたのは8.3%(裁判官時代は4.7%)。殺人未遂は34.3%(同30.4%)、強盗致傷12.8%(同5.1%)に執行猶予がついた。報道を見ていても、介護疲れの果ての殺人・殺人未遂などに対しては、執行猶予がつくケースがかなりある。これもまた、市民感覚が反映された結果だろう。

 つまり、量刑の水準を変更するには、1つの事件でドラスチックに変えてしまうのではなく、徐々に、他事件との公平性も保っていきながら変えていくのが望ましい、というのが、最高裁のメッセージと読めばいいのではないか。

(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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