また、猪木氏は先の7月の訪朝で、姜錫柱(カン・ソクチュ)党書記とトータル5時間にも及ぶ話し合いをした。現在の日朝関係について、どうとらえているのか?

「今回も訪朝中にミサイルが発射されましたが、『これは南北の訓練であって、我々の訓練に対して、なぜ日本から批判されなければいけないのか』と言っていました。通常練習の一環という認識なのです。それに日本のメディアのインタビューでは、相変わらず飢餓の話が出ます。確かに90年代にはそういう時代もあり、日本は北朝鮮に圧力をかければ屈する、というあり方でしたが、今の北朝鮮は162カ国と交流があります。確実に人々の暮らしは良い方向へ変わってきています」

 拉致問題について、「姜錫柱党書記しかり、日朝国交正常化交渉担当大使の宋日昊(ソン・イルホ)氏など、相当したたかな印象を受けますが、腹が据わっているし、前向きに取り組もうという姿勢を感じます。ただ拉致問題解決が最優先課題とする日本に対し、北朝鮮は立場が違うから、一筋縄ではいきません。その国のやり方、互いに複雑な事情はありますが、ともあれ『外交に勝利なし』です。両政府ともに自国の国民感情をふまえ、それぞれの立場の主張を展開します。お互いが納得できるような落としどころを追求していかないといけません。残念ながら日本の外務省は担当者も都度替わり、北朝鮮からすると本気の度合いが見えづらいと思います。外交がそんなに簡単に進むとは思っていないですが、勝ち負けではなく、本腰を入れて向かう姿勢はしっかり持っておかないといけません」

 いろいろな条件を突きつけられたときに、尻尾を巻いて逃げるのか、あるいは一歩踏み込んでいくのか、覚悟の問題だと力説する猪木氏。

「我々のやっていることも、万一また制裁措置が取られると止まってしまう可能性が大きい。そうなると拉致問題は解決しませんし、膠着状態はまた何年も続くでしょう。そういう意味でも、今回のイベントは歴史的にも大変意義のあるイベントになると思います」(同)

「人、人、人、の人の渦
十九万人が見つめる男の闘い
平壌の夜空に
怒涛の喚声がこだまする
師匠・力道山の祖国
二度と帰れなかった故郷・・・」
(猪木詩集『馬鹿になれ』<角川文庫>収録『師匠』より)

 先の7月の訪朝時にも金正恩第一書記に、闘魂を注入した赤いタオルを贈ったという猪木氏。正恩氏が表立って観戦することはないかもしれないが、猪木氏が師匠・力道山への思いを乗せて19年前の平壌を熱狂の渦に包んだ舞台は、大きな期待を込めて、今月末再び幕を開ける。
(取材・文=鄭美華)

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