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星良孝『医療と健康の最前線からこぼれる話』(9月2日)

認知症は治らない?治さなくてよい?「治る」という考えが、患者の徘徊や攻撃的行動の遠因に

文=星良孝/Medエッジ編集長
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認知症は治らない?治さなくてよい?「治る」という考えが、患者の徘徊や攻撃的行動の遠因にの画像1「Thinkstock」より

認知症を治さなくてよいと考える発想転換

 今、『治さなくてよい認知症』(上田諭/日本評論社)という本が注目を集めています。認知症についてこれまでの常識を覆し、認知症を治そうとする風潮をある意味で否定して「治す必要はないのだ」という発想転換を迫っています(本稿では認知症とは、その多くを占めるアルツハイマー病のことを指します)。そのため、賛否両論の議論を起こすかたちで大きく注目されています。

 そもそも認知症が今、従来ないほど関心を集めています。今年ほど認知症が注目されているのは、この10年近くで初めてではないでしょうか。まずは認知症患者が潜在的な層も含めて900万人に迫っているというのが大きいのでしょう。昨年末、朝田隆・筑波大学教授(精神神経科)らが、認知症患者が全国に462万人、一歩手前の軽度認知機能障害(MCI)者はおよそ400万人いるとの調査報告を行いました。 また、テレビ番組のNHKスペシャル『“認知症800万人”時代 認知症をくい止めろ~ここまで来た!世界の最前線~』(7月20日放送)をはじめ、メディアもこぞって認知症を取り上げていました。

 4月には、認知症の高齢者が徘徊して踏切事故に遭うという事件で、鉄道会社が高齢者の家族に対して損害賠償請求を行い、裁判所は360万円の賠償支払いを命じ話題を呼びました。さらに行方不明が1万人に上ったなどとも伝えられています。

 こうした中で「いかに認知症を治すか」という議論が沸く中で、「そもそも治さなくていいじゃない」という観点が出てきたことが世間に驚きを与えているのです。

15年前から薬が登場するも「全然治らない」

 本書の著者である医師の上田氏は、「自分の診ている患者が大まかにいって半分はうつ病、半分は認知症なのですが、うつ病は治療するとどんどん良くなるのに、認知症は本人と家族の不満がたまっていく一方でした」と述べています。上田氏は、15年ほど前に認知症薬が登場してこれで状況が改善すると期待しましたが、結果として認知症を治せないことに愕然としました。思い悩む中でたどり着いたのが「治さなくてよい」というアプローチでした。

 上田氏は、短期間の出来事を記憶できなくなったり、順序立ててする行動で困難を伴うようになった場合は医療機関で受診することは勧めています。一見、認知症でも、うつやてんかん、偽物の認知症の場合があり、治せるからです。その上で、「認知症はそもそも治さなくてよい」と考えると、医師や患者を含めて、周囲の本人に対する接し方が大きく変わるといいます。

 現在では認知症が治るという観点に立ってしまい、家族はなんとか治そうと思うので、本人に記憶障害が発症してできるはずのことができなかったりすると、「なぜできないのか」と怒ってしまう。そこに問題があると上田氏は指摘しています。

「治さなくてよい」の先にビジネスも

 ただし上田氏は、医療行為を認知症患者に施さないわけではありません。治らない前提の下で、本人の気持ちをうまくくみ取っていこうというところがポイントです。記憶がなくなっても、行動に困難が生じても、認知症は治るものだと期待しながら対面していくのと、「認知症は治らない」と考えて接するのでは応対の仕方がまったく違ってくるというわけです。認知症患者の怒りっぽさや徘徊が問題視されますが、実は認知症そのものの症状として出ているのではなく、周囲の攻撃的な態度が遠因となって、本人が大きなつらさや不満を感じて行動を起こしている場合も多いといいます。

 認知症の問題に直面している医師や家族などからすると、夜な夜な起きだして問題行動を繰り返す認知症患者に接する中で、「治さなくてよい」という意見には賛同できない人も多いようですが、
実際に「認知症は治らないですよね」という声は介護の現場からは聞こえてきます。

 そうした問題をいかに解決するのかという議論の中に、もしかしたら新しいビジネスがあるのかもしれません。
 (文=星良孝/Medエッジ編集長)

星良孝

星良孝

2001年、日経BP社に入社し、雑誌「日経メディカル」「日経ビジネス」「日経バイオテク」の編集を担当。10年からは大手医療専門サイトの編集者を務める。連続テレビドラマ『白い巨塔』(フジテレビ)、『最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学』(朝日放送)の取材協力も担当している。

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