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一度“挫折した”経営者の登用、なぜ相次ぐのか 他社の経営中枢で失敗経験をフル活用

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 その主な原因は次の通りだ。

 00年代に入り製造装置が標準化され、それを購入さえすればどのような企業でも液晶や薄型テレビを生産できるようになった。その結果、韓国メーカーに続き、台湾メーカーが参入してきた。この過程で、テレビの価格は下がり続け、堺工場(大阪府堺市)が稼働し始める時期には一段と価格競争が激しくなっていた。追い打ちをかけたのが、08年秋のリーマンショックである。以後、先進国だけでなく、急拡大していた新興国市場でもテレビの伸びも鈍化。60インチ以上の大型テレビが普及すると見て、大画面テレビ向けの大型液晶を生産するため、4200億円もの巨費を投じて09年10月に稼働した堺工場は、無用の長物になってしまった。

 そして、12年3月期、13年同期には液晶テレビの販売不振に液晶パネルや電子部品の在庫損失が重なり、それぞれ3760億円、5453億円の最終赤字に陥ったのである。片山氏はその転落の中、12年4月に会長に退き、13年6月にはさらにフェロー(技術顧問)となり、経営の中枢から外れることになった。

●成功と挫折の両方を経験


 その片山氏は9月1日付で顧問として日本電産に入社し、10月から副会長執行役員・CTOに就任する。「経営者は成功と挫折の両方を経験することが大事」という持論を持つ同社創業者である永守重信社長が、約1年半前から声をかけていた。

 永守氏は、カルソニックカンセイ元社長の呉文精副社長兼COO(最高執行責任者)、三菱電機、エスエス製薬などを経て入社した吉松加雄・取締役専務執行役員CFO(最高財務責任者)、三菱自動車出身の早舩一弥・取締役専務執行役員ら、大企業の経営幹部経験者を相次いでスカウトしてきた。片山氏を迎えることで、技術経営の基盤を拡充しようとしている。

 非世襲を宣言している永守氏も、8月28日で70歳を迎えた。「松下幸之助氏が亡くなられた年(94歳)までトップを続ける」「世襲は行わない」と公言する永守氏は、集団指導体制確立に向けて着々と布陣を敷く。「IQ(知能指数)よりもEQ(感情指数)」との人材論を口にしてきた永守氏だが、経営陣のスカウト人事を見ていると、IQの高そうな人を採用している。しかし、ここで見落としてはいけないのは、彼らは頭でっかちの秀才ではなく、EQもかなり高いということである。ここでいうEQとは情熱、集中力、行動力という言葉に置き換えてもいいだろう。

 筆者は、永守氏、片山氏の両氏に何度もインタビューした経験があるが、2人は似た性格である。それは、「イケイケドンドン」「猪突猛進」と表現していいほど、常に前向き。ちなみに、日本電産の本社に飾られている風景画に夕日の絵は一枚もない。すべて日が昇る絵である。これには、永守社長の思いが込められている。

 とかく、大企業だけでなく中小企業も含めて、日本は一度失敗した経営者を「A級戦犯」として叩く傾向がある。特に日本のジャーナリストは、最後の結果だけに着目し、それまでに大きな功績があったとしても評価しない。ところが近年、片山氏の一件だけでなく、「捨てる神あれば拾う神あり」という動きが見られるようになってきた。

 片山氏と旧知の仲である、パナソニックに買収された三洋電機の井植敏雅氏は、創業家出身で最後の社長となってしまったが、「ラストエンペラー」では終わらなかった。現在は、LIXILグループの代表執行役副社長として、同社のグローバル化の推進役を担い、藤森義明社長の右腕として水を得た魚のように活躍している。井植氏も失敗の経験が買われた。一度失敗したプロフェッショナルの潜在能力は、バカにできない。「倍返し」してくれる可能性がある。

 苦労の末、シャープを創業し、その後も、何度も挫折を経験した早川徳次氏は晩年、講演会場で色紙にサインを求められたとき、必ずこう書いた。

「なにくそ」

 片山氏も「なにくそ」という思いを強めているはずである。日本電産での活躍を期待したい。
(文=長田貴仁/神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー、岡山商科大学教授)

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