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小笠原泰『生き残るためには急速に変わらざるを得ない企業』(9月7日)

分裂する米国と中国、極度に相互依存する覇権なき世界…企業は生存率をどう高めるのか

文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

●ヘゲモニー(覇権)の黄昏

 これから2050年に向かって訪れるのは、ヘゲモニー(覇権)がなく、経済的、社会的に極度に結合・相互依存した国境の低い世界の中に弱体化した主権国家が最低限の集合的主権を持つという、これまでに経験したことのない環境ではないだろうか。現在、共同ヘゲモニーを有するアメリカ中国は、強国への道ではなく、分裂への道を歩むであろう。

 アメリカでは今後ヒスパニックの人口が急増し、人口の半数以上がスペイン語を母国語とすることになる。この時点で、アメリカが現在同様の成長を維持できると考えるのは難しい。アフリカ系のアメリカ人との摩擦も一層強まるであろう。インドと中国のアジア系移民の数も増加する。ヒスパニック系の大統領の誕生は想像できるが、はたして、アジア系の大統領がアメリカで生まれるであろうか。結果的に、地域による経済格差が大幅に拡大する可能性が高い。最終的にはメキシコとカナダとの境界もあいまいになり、南北戦争当時と同様に「アメリカ合衆国」を維持するのが難しくなるのではないか。

 一方、中国が、このまま経済成長を続けることを想定することも極めて難しい。現在、GDPの規模では日本と同様であるが、人口は10倍であり、一人当たりでみれば10分の1でしかない。これを日本の半分にするには、GDPを現在の5倍の大きさにしなければならないが、果たして可能であろうか。2010年代に人口構成の変化が経済にとってマイナスに作用する人口オーナス期に入る中国では、GDP規模を今の2倍(年率7%で約10年かかる)、つまり一人当たりのGDPを日本の5分の1にするのでさえ、かなり難しいのが現状ではないだろうか。例えば、今後の中国経済の規模が今の2~3倍程度で停滞したとすると、現在の中央集権体制を維持することは難しく、人民解放軍の問題もあり、紆余曲折はあろうが、歴史が示すように北京、上海、福建、広東、成都の中核地域が自律的に機能する可能性が高い。

 このように、2050年に向かって、アメリカと中国に現在同様のヘゲモニー(覇権)を期待するのは難しい。そして、アメリカと中国にかわるヘゲモニー(覇権)国家の出現を、現状のグローバリゼーションを前提において考えることも極めて難しい。

●強度に結合し相互依存した世界

 このことは、一国による覇権で世界が安定し、かつ経済的に発展するとする覇権論の主流である、国際政治経済学者のロバート・ギルピンによって確立された覇権安定論(Hegemonic stability theory)における、以下の3つの条件を満たさない世界が訪れることを意味する。

(1)ある国家が他の国々を圧倒する政治力及び経済力を有している状態にあること

(2)(1)の状態にある国家が自由市場を実現するための国際秩序の構築と維持を積極的に主導すること

(3)(1)の状態にある国家によって構築・維持される国際秩序内に留まることで、覇権を有さない諸国にとって経済活動から利益を享受することができること

小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

1957年生まれ。東京大学卒、シカゴ大学国際政治経済学・経営学修士。McKinsey&Co.、Volkswagen本社、Cargill本社、同オランダ、イギリス法人勤務を経てNTTデータ研究所へ。同社パートナーを経て2009年より現職。主著に『CNC ネットワーク革命』『日本的改革の探求』『なんとなく日本人』、共著に『日本型イノベーションのすすめ』『2050 老人大国の現実』など。
明治大学 小笠原 泰 OGASAWARA Yasushi

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