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江川紹子の「事件ウオッチ」第12回

【池上コラム掲載問題】朝日だけじゃない!“正義”のために「事実軽視」「謝罪拒否」するマスコミの不遜

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 こうした風潮があったのか、なかったのか、今回の問題を機に、じっくり検証してみたらどうだろう。「正義」は尊いが、新聞の最大の使命である「事実を正確に伝えること」が損なわれては絶対にまずい。同じ会社で同じ空気を吸っている人には気がつきにくい問題も多いと思う。ぜひ、社外の様々な立場や考えの人による、第三者委員会を組織し、検証をしてもらったらいい。

 朝日新聞では、記者たちが実名でツイッターを通して発信をしている。池上コラムの問題では、多くの記者が抗議の声を挙げた。このように社会でも自由な言論を尊ぶのは、同紙のよい社風だろう。朝日を非難しているメディア、たとえば読売新聞の記者が、実名で最大権力者の渡辺恒雄氏の批判をネット上でできるだろうか。よい社風を保ちながら、問題の根を掘り起こして改めるところは改める。そうして出直すことが、朝日新聞にとっても、日本のジャーナリズムにとっても、最善の道だと思う。

 もっとも、「正義」を掲げて報道をしているのは、何も朝日新聞だけではない。産経には産経の、読売には読売の「正義」があり、それに伴ったバイアスが生じることはある。誤報を自ら正せず、謝罪がなかなかできないのも、朝日に限ったことではない。

 たとえば読売新聞は、原発事故の時に、菅直人首相(当時)の意向で海水注入が中断された、と報じた。菅氏は誤報だとして抗議をしており、読売側は未だに記事を裏付ける根拠を示せていない。この報道やその後の対応には、民主党政権や菅氏の政治姿勢を問題視する、読売の「正義」が影響してはいないか。

 雑誌メディアでも、今、朝日新聞を叩いている「週刊新潮」(新潮社)や「週刊文春」(文藝春秋)が、裁判で誤報を認定され、しぶしぶ判決で命じられた謝罪広告を掲載したものの、同じ号で判決への恨み節を綴った記事を大きく載せるなど、実に潔くない対応をしたことがある。また、こうしたメディアが、自分たちの記事を「ねつ造」などと断じた書籍の広告を掲載するだろうか。それを考えれば、朝日が両誌の広告掲載を拒んだことを責められないのではないか。

 事実を示して相互批判をするのは悪いことではないが、このところの他メディアの朝日叩きは異常な気がする。自分たちも同じ問題を抱えていることを自覚して、むしろ他山の石としてもらいたい。そうでないと、この朝日叩きのブームの後には、人々の「朝日離れ」にとどまらず、一層の「マスコミ離れ」現象が待っているかもしれない。
(文=江川紹子/ジャーナリスト)

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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