ネスレ、なぜコーヒーマシン50万台無償貸与?プラットフォーム戦略は成功するか?
このようなプラットフォームを構築して販売拡大に結び付けた企業は、枚挙にいとまがありません。
例えば、伊藤園は冬場に落ち込むペットボトル緑茶の需要を高めるために、ホット専用商品を、苦心の末に開発しました。ところが、当時はペットボトル緑茶を店頭で温める機械が販売店になかったために、伊藤園は自社専用のウォーマーを開発して10万店にも及ぶ全国の販売店に無償で設置。このプラットフォームの構築にはもちろん莫大なコストを要しましたが、冬場のホット緑茶の需要を大きく高めることに成功し、コストを賄って余りある利益を実現することができたのです。
●「ツートップの波状攻撃」が成功の鍵
コストを自社で負担してプラットフォームを構築すれば、続いてそのプラットフォームに乗せる製品でコストを回収し、収益を上げていかなければいけません。無料を武器に市場を切り開いた上で、次の有料商品の“波状攻撃”で最終的な目標を達成できるようになるのです。
ネスレの場合は、コーヒーマシンで使うコーヒーカプセルが、その役割を果たします。つまり、コーヒーカプセルは、原価にプラットフォームを構築するのに要したコストを上乗せした価格設定がなされているのです。
このような2段階のビジネスモデルを検討する際には「顧客生涯価値」という考え方が重要になってきます。
一般的に、ビジネスは取引ごとに必ず利益を上げなければならないと考えられがちですが、最初は赤字でも長期的に採算ベースに乗せればいいという考え方もあるのです。この考え方が顧客生涯価値と呼ばれているものです。この考え方に基づけば、まずは採算を度外視して顧客開拓を優先し、かかった費用を長期の取引の中で回収していくというビジネスモデルを展開することができます。
例えば、プリンタ事業なども、この顧客生涯価値に基づいたビジネスといえます。プリンタは安いものであれば数千円の商品からありますが、低価格のプリンタは本体を販売したときは赤字が出たとしても、長期にわたって繰り返し利用されるインクの販売で利益を上げていくのです。まずは、プリンタの本体価格を極限まで安くすることにより顧客の購入に対するハードルを下げて、「売れる確率」を高めていきます。そして、ある程度の販売台数が出ればそれがプラットフォームとなり、印刷に必要なインクを販売して、最終的に利益を上げていくのです。
●2段階ビジネスの注意点
このような「2段階ビジネス」を展開する際には、注意すべき点があります。
それは、プラットフォームの“タダ乗り”です。前述のとおり当初プラットフォームを築くのに要したコストは、その後の商品に転嫁した上で価格設定を行うために割高になることは避けられません。ここで、割高な価格に目を付けた他社が、同様の商品をより安い価格で提供し、苦労して築いたプラットフォームにタダ乗りしてくる可能性があるのです。