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鈴木貴博「経済を読む“目玉”」第22回

クーポン利用は「割に合う」のか?値引きか箱ティッシュ無料贈呈、どちらが集客効果高い?

文=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
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 さて、昨日のことだった。大学生になる娘がファンケルの化粧品を買いに東京・新宿に行くというので、家内が「これを持っていくといいよ」とクーポン券を渡していた。通販での購入時にもらった「3000円以上の買い物で300円引き」のクーポンだった。娘が出かけた後で、「まあ、こういう習慣を身につけさせることも教育としては重要だよね」と筆者はさも300円の割引など微々たるもので実利はないかのごとく、家内に対して論評していた。

●クーポン利用は、経済学的に「正しい」のか?

 このようなクーポンを利用する行動は、経済学的にみると正しいのだろうか?
ミクロ経済学の立場に立つと、割引適用を受けたりやプレゼントをもらう「機会」と、それによって失う「時間」の「機会損失」をはかりにかけて行動するのが正しい。仮に年収1000万円の高額所得者の場合、年間の労働時間を2000時間だと仮定すれば、1分間で稼ぐ給料は83円である。つまり分速で83円稼げないような行動に時間を費やすのは愚かな行動ということになる。

 ユニクロでの筆者の行動をこの考えで分析してみる。実際はボックスティッシュを普通に手にして帰ってきたのだが、もしレジでこの話を聞いて「あと一着Tシャツを買い増そう」と行動していたとしたら、売り場に戻り、欲しいTシャツを選び、レジの列に並びなおすのに10分はかかっていたはずだ。経済学的な機会損失は83円×10分=830円である。

 それに対して得られるボックスティッシュは3箱。近所の薬局ではネピアが5箱で199円で売られているから、3箱ならまあ120円というところだろう。つまり、ボックスティッシュが欲しいからといって売り場に戻るのは、年収1000万円の人にとってはまったく割に合わないのである。ましてや余計に購入したTシャツ1着がもし無駄な買い物だったとすれば、その損失たるや絶望的なもののはずである。

 一方で「これ持っていきなよ」とクーポン券を娘に渡した家内の行動はどうだろう?主婦の仕事の価値をいくらで見積もるかを間違えるといろいろと批判の声があがることを考慮して、仮に筆者と同じく主婦にも1分あたり83円の機会コストがかかるとしよう。

 状差しからクーポンを手に取って娘に「これ持っていくといいよ」と手渡すのに1分かかるとは思えない。娘がそのクーポンを取り出してレジで手続きをするのも合わせてトータルで1分余計に時間がかかるとしても、失う機会コストは83円程度である。そして、それで娘が得られる値引きは300円。つまり家内の行動は経済合理的に正しいわけだ。

 にもかかわらず、経済を本業にしている筆者のような人間でも、ボックスティッシュ3箱(120円)をもらうのに心臓がどきどきしたり、300円の値引きを鼻で笑ってしまうのはなぜか?

●「大きいもの」の集客効果

 これを説明するもっとも正しいと思われる答えは、

「人間は経済合理的には行動しない」

ということなのである。

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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