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パナソニック、テクニクス復活の意味 歴史の学びと愚直なカイゼンで目利き世代獲得なるか

文=長田貴仁/神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー、岡山商科大学教授
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 さらに、ソニー急成長の牽引車となったヘッドホンステレオ「ウォークマン」の登場がオーディオ専業メーカーに大打撃を与える。音楽は部屋に居て聴くものという常識を打ち破ったからである。むしろ、ヘッドホンステレオ登場後は、音楽は戸外で楽しむものといった風潮が年々高まった。その後に発売されたポータブルCD、ポータブルMDがこの動きに拍車をかけた。同市場には、総合電器、総合家電の多くのメーカーが参入した。

 その後、オーディオが工業芸術品からコモディティ(日用品)となり、全盛期に見られた「高音質ブランド」で勝負できる時代は終わった。89年に山水電気が、90年に赤井電機、そして97年にはナカミチがいずれも香港資本傘下に入り、高級オーディオよりもメガ・コンペティションに勝てる価格競争力のある製品を主力にした。ところが、工業芸術品路線から遠ざかっていった日本メーカーとは反対に、高級オーディオの代名詞とされていた「ラックス」を94年に買収した韓国のサムスン電子が1台65万円というパワーアンプB-10(2台1組で使用)を発売しヒットさせた。

パナソニックの「学びの姿勢」

 以上のようなオーディオの経営史を知れば、スマートフォン(スマホ)でしか音楽を聴かない世代も、2つのニュースの重要度がわかるのではないだろうか。経営史を学ぶ意義について、米倉誠一郎・一橋大学大学院教授は、「他人が考えるよりもさらに多くのことを考える、そして他人が考えないことを考えることが経営史学では重要だからである。他人が考えなかったこと、あるいは考えなかったような組み合わせを行うことが差異、すなわち競争力を生み出す源泉だからだ」(『経営学・入門』<宝島社/98年/p.210>)と指摘している。

 パイオニアは歴史(祖業のオーディオ)を捨てて未来(カーエレクトロニクス)へ飛んだ。一方、パナソニックはテクニクスの歴史から学ぼうとしている。近年、音楽の楽しみ方が多様化するとともに、CD規格を超えるハイレゾ音源【編註1】が普及し始め、よりリアリティのある高品位な音の表現が求められてきている。この潮流をとらえての復活劇だが、それだけでは競争力は不十分 。パナソニックは、テクニクスにより、他人(他社)が考えるよりもさらに多くのことを考える、そして他人(他社)が考えないことを考えなくてはならない。

 ところで、パナソニックは、50~60代の「目利き世代」へ向けて、これからの日本の暮らしに合った新コンセプト家電「Jコンセプト」シリーズを10月下旬より順次発売する。3万のユーザーの声を聞き、きめ細やかな点を配慮し改良した「モノづくり」における地道な努力は高く評価できる。

 同社は13年秋、変革を牽引するキーワードとして「Wonders! by Panasonic」を制定した。ただの驚きではなく、より良い明日につながる、地に足のついた驚きを表している。つまり派手さは求めない愚直なカイゼンとも理解できる。「Jコンセプト」シリーズも、この路線なのだろう。堅実なパナソニックらしいといえばパナソニックらしい。この発想が悪いとはいわないが、変革を牽引するというのであれば、もう一歩も二歩も踏み込んでほしい。

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