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期待の6次産業育成、なぜ成功例出ない?生産、販売、規制…立ちはだかる多数の壁

文=小林敬幸/『ビジネスをつくる仕事』著者
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●規制や生産面での壁も

 さらに、第2次産業の理解の壁もある。以前から近所の店に少しだけ売っていた「へちまの浅漬け」をネットで売り出すと、浅漬けでは消毒効果が少なく食中毒を起こしかねないと、安全面の問題を指摘された。食品加工の壁だ。

 また、農家が知り合いにへちまをあげるときに言っていたのと同じ調子で、ネットで「お肌をきれいにします。シミもとれます」などと書くと、とたんに効果・効能を訴えるのは薬事法違反だと役人が問題視してくる。一般的に、加工品は規模の大きな企業が製造販売しているので、当局も目を光らせていて規制が厳しい。そこに、小規模事業者がかかわると、規制への対応だけで大わらわになってしまう。これが、規制の壁だ。

 百貨店にごっそりマージンを落としてようやく売れ始めてみると、今度は農家の生産数量が追いつかない。そもそも植物は成長するのに時間がかかるし、過疎と人手不足のため兼業農家が多く、生産余力が少ない。だからといって、「中崎村」ブランドなので隣の村からへちまを買えない。結局、生産能力の迅速な拡大ができない。生産面の壁である。
 
 さらに、経営の思考方法の壁がある。農家から出てきた事業者は、何かと補助金漬けの思考回路に染まっており、それがビジネスの判断を歪めがちだ。6次産業事業者の認定を受けて補助金を受けるために、余計なことをしてしまう。そして困ると、政府からの支援を得るためにはどうすればいいかということばかりに思考がいってしまう。補助金思考の壁だ。また、地域振興、農業発展を目指して6次産業事業を起こすような人は、志の高い人が多い。「日本の農産物の輸出を増やすべきだ」「二酸化炭素の量も気になる」と、さまざまな運動を始める。素晴らしいことだが、限られた経営資源では、まずは「中崎村のへちま漬け」を売ってからにしたほうがいい。理念先行の壁だ。

●「餅は餅屋」

 こうして数え上げてきた6次産業の壁をもう一度振り返ると、農業をやってきた者が高付加価値を狙って2次産業、3次産業に進もうとするのは、不慣れなゆえに時間もコストもかかり、かえって効率が悪い。大手企業でも、企業間分業をやめ垂直統合するのは、多額の資金と人的資源が必要なので相当の覚悟がいる。それを小規模の事業者が2次産業、3次産業まで小規模のまま進出しようとするのは、無理が多い。それよりも一次産業に特化し、競争力のある農産物の生産に集中したほうがいいだろう。「餅は餅屋」なのだ。

 もちろん、業界構造上の既得権益を得る事業者が出ないように、外部から自由に参入できるようにしておいたほうがいい。しかし、その困難な道を、経営資源の限られている地方の事業者に周囲が煽り立てて勧めるのは、いかがなものだろう。
(文=小林敬幸/『ビジネスをつくる仕事』著者)

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

小林敬幸/『ふしぎな総合商社』著者

1962年生まれ。1986年東京大学法学部卒業後、2016年までの30年間、三井物産株式会社に勤務。「お台場の観覧車」、ライフネット生命保険の起業、リクルート社との資本業務提携などを担当。著書に『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『自分の頭で判断する技術』(角川書店)など。現在、日系大手メーカーに勤務しIoT領域における新規事業を担当。

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