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小笠原泰「生き残るためには急速に変わらざるを得ない企業」(11月3日)

企業や個人に選別され、悪あがきする国家 制御不能で根底から存在を見直される時代

文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

企業や個人に選別される国家

 このような資本再生産の乗り物の移行は、国家が優れた企業や有能な個人を選ぶのではなく、逆に選別される側に回ることを意味している。

 今後は、優秀な個人と企業に選ばれた国は栄え、そうでない国は廃れていくであろう。複数の国のパスポートを持つことが当たり前になるかもしれない。この観点で考えると、人口が多く、変化対応の遅い国家(人口が多いほど、合意形成に時間がかかる)は、不利になるのではないか。もはや、GDPの総額と人口(または兵士)の数で国力を競う時代ではなく、重要なのは一人当たりのGDPではないだろうか。人口が60万人足らずのルクセンブルクの一人当たりのGDPが日本の2倍以上の11万ドルということや、人口550万人足らずのシンガポールの一人当たりGDPが日本を上回るという事実は興味深い。

 グローバル化により現在、主権を盾に高めに法人税を設定することさえできない国家が生まれ、G7/G8からG20への拡大に顕著なように国家単独の決定権が弱体化する流れが強まっている。そして、国家主権のおよばない多国籍企業、国境を超えて自由に移動する優秀な個人、自由に移動できる資本と生産財を、国家が再度管理することはすでに限界である。このような現実を見てみれば、国家の4要件(主権、領土、国民、情報のコントロール)に基づく国家の専権性は、もはや成り立たないことは明白であろう。

 領土の問題を例に挙げれば、否決されたとはいえ、スコットランドの英国からの独立に関する住民投票や、米国が悪者扱いしようとするイスラム国の動きは、人工的につくり出された国民国家の限界を示している。また、国民の面では、優秀な国民は国家間を移動し、特に富裕層はもはや国家を見てはおらず、結合と相互依存を高める世界で何が起こっているかが最大の関心事であり、課税に敏感で足が速い金融資産の多くはすでに海外に移転されており、国外に移住する者も多い。

 国家はなくならないが、その力は間違いなく低下していくであろう。国家は抵抗するであろうが、国家の機能は縮小していかざるを得ず、国家はその成り立ちを根底から見直す必要に迫られるはずである。最終的に国家が機能縮小という結果を迎えるという可能性を受け入れることなく、変わりたくないと悪あがきする国家と、生き残るためには急速に変わらざるを得ないことを理解し、変身するであろう合理的な企業と、その狭間でリスクテイクの判断を迫られる、変わらなければいけない個人という構図である。畢竟、政府がつくってきた、国家と企業と国民(個人)が同一のインタレスト(関心)を持つ、三位一体という仕組みはもはや機能しないと考えるべきである。社会福祉国家を維持することは不可能であることを国王が国民に宣言したオランダは、変わることをいち早く決した国家であるが、かたや、安倍政権は、変わりたくないと悪あがきする国家の典型ではないであろうか。

小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

小笠原泰/明治大学国際日本学部教授

1957年生まれ。東京大学卒、シカゴ大学国際政治経済学・経営学修士。McKinsey&Co.、Volkswagen本社、Cargill本社、同オランダ、イギリス法人勤務を経てNTTデータ研究所へ。同社パートナーを経て2009年より現職。主著に『CNC ネットワーク革命』『日本的改革の探求』『なんとなく日本人』、共著に『日本型イノベーションのすすめ』『2050 老人大国の現実』など。
明治大学 小笠原 泰 OGASAWARA Yasushi

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