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巨額赤字スカイマーク、自主再建不可能か 多額債務支払い能力と運転資金確保に懸念広がる

文=田沢良彦/経済ジャーナリスト
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巨額赤字スカイマーク、自主再建不可能か 多額債務支払い能力と運転資金確保に懸念広がるの画像1スカイマークの旅客機(「Wikipedia」より/坂部 秀治<G-TOKS>)

 欧州エアバス社の超大型機「A380」をめぐる巨額違約金問題に揺れている国内航空業界3位のスカイマークが、設立以来の危機に直面している。

 同社は10月30日、2015年3月期業績予想を下方修正し、最終損益が137億円の赤字(前期は18億円の赤字)の見込みと発表した。期初の黒字予想(4億円)から一転、同社にとって過去最大の赤字に転落する見通しとなった。売上高も883億円、営業損益も124億円の赤字に、それぞれ下方修正した。

「ミニスカ制服」で話題となったエアバス社の中型機「A330」の就航が計画より約3カ月遅れ、導入費用が膨らんだところへ、円安による燃料費急増が追い打ちをかけた。さらにLCC(格安航空会社)との競争激化も業績の足を引っ張った。この10月末に撤退した成田空港発着便ではLCCに客を奪われ、年末年始と8月の繁忙期を除いて不振が続き、搭乗率が20%台にまで落ち込んだ月もあった。

 今回下方修正された15年3月期決算には、A380の違約金問題は織り込まれていないにもかかわらず、なぜこのような危機的な業績見通しに陥ったのだろうか。そこには、同社特有の内部要因が潜んでいるようだ。

波乱に満ちた経営

 同社は設立当初から波乱に富んでいた。同社は航空事業規制緩和により1996年に生まれた「新規航空会社」の第1号。羽田―福岡路線への就航で営業を開始したのが、その2年後の98年。日本航空(JAL)や全日空(ANA)の半額程度という格安運賃を売り物に、就航当初こそ平均搭乗率は80%を超えていた。しかし間もなく客を奪われた大手2社が対抗値下げを実施、瞬く間に搭乗率が低下して採算が悪化し、赤字経営に陥った。資金不足は第三者割当増資や東証マザーズ上場(00年5月)で切り抜けていった。

 わが国で先行モデルのない「新規航空会社」の経営は、試行錯誤の連続。創業者の澤田秀雄氏(現エイチ・アイ・エス会長)の要請を受け、IT起業家の西久保愼一氏が03年10月に社長に就任するまで、社長が4人も交代していた。

 西久保氏はトップに就任するやいなや、整備コストの大幅削減、人件費削減などコストカッターとしての手腕を真っ先に発揮、それまでの赤字経営に歯止めをかけた。その後、後発の新規航空会社、北海道国際航空(現AIRDO)が経営破綻し実質的にANA傘下に入る中、スカイマークは西久保氏の奮闘で経営を軌道に乗せ、独立経営を守った。11年3月期には112億円の営業利益を上げ、翌12年3月期にはそれを153億円に拡大した。そうした中で、西久保氏が次の成長を目指して打ち出したのが、10年11月に発表した「国際線参入計画」だったが、それが今回のつまずきの原因になった。

LCCという誤算

「新規航空会社の経営成功」に自信を得て、国際線に打って出ようとしたスカイマークの足元をすくったのはLCCだった。12年は航空業界で「LCC元年」といわれた年。12年3月にANA系のピーチ・アビエーションが就航したのを皮切りに、7月はJAL系のジェットスター・ジャパン、翌8月はANAとエアアジア(マレーシア)合弁のエアアジア・ジャパンと、一気に3社が就航した。

 サービス面でLCCと大差のないスカイマークはLCC3社の格好の標的にされ、業績が急降下。12年3月期の営業利益は前期比69.4%減で一挙に47億円までしぼみ、14年3月期はついに25億円の営業赤字に沈んだ。

 さらに14年4―6月期の営業赤字は55億円に拡大。この弱り目に追い討ちをかけるように発生したのが違約金問題だった。エアバス社に発注していたA380の購入代金の4月支払い分が未納として、エアバス社は7月29日付でスカイマークに約700億円に上るともいわれる契約違約金の請求と共に売買契約解除を通告。8月末時点のスカイマークの保有現金は72億円とみられるため、株式市場では同社の資金繰りへの不安が一挙に高まった。

運転資金不足の懸念も

 航空業界担当の証券アナリストは、同社に対し厳しい見方を示す。

「財務諸表を読む限り、自力再建はまず不可能。例えば純資産は389億円(9月30日現在)あり、自己資本比率は49.7%とANAの35.1%を大きく上回っている。しかし短期の債務支払い能力を示す当座比率は49.5%で、安全水準といわれる80―100%のほぼ半分しかない。しかも、火急の際に現金化できる有価証券も保有していない。このままでは運転資金も不足しかねない深刻な状況」

 同社は近年、有利子負債ゼロの無借金経営を貫いてきた。通常ならこれが経営の健全性を示す証しだが、皮肉なことに、これも同社の足枷になっているようだ。

「スカイマークは無借金経営なので、メインバンクを持たない会社。つまり、経営危機に陥った時に金融支援してくれる銀行がいない。10年に経営破綻したJALの場合はメインバンクが音頭をとって再建スキームを描き、JALは経営独立性を全うできた。スカイマークにはこれができない」(都銀関係者)

 一方、大手リース会社関係者は「自力再建を絶望視させているのがリース債務の多さ」と、次のように説明する。

 スカイマークは機材を34機(今年10月1日現在)保有しているが、これらはすべてリース。一般の残債に当たる未経過リース料期末残高は約1000億円(14年3月期)。この支払いを営業赤字の中で続けなければならないが、行き詰まるのは時間の問題だ。
それを避けるためには一定機材数をリース解約して身軽になる必要があるが、解約で機材数が減っても、その負担がなくなるわけではない。リース会社との交渉次第になるが、ある程度は払わなければならない。だが、今の同社に、そうしたリストラ原資さえ捻出する余裕はない。

国際線参入は無謀だったのか

 同社が国際線参入計画を発表した時、業界内からは一斉に「無謀」との批判が噴出した。ある業界関係者は、次のように同社の勇み足を残念がる。

「同社はドル箱羽田空港の発着枠を36枠も持っている。これをうまく使い地道な経営努力をすればLCCと大手のはざまの中堅航空の特徴を生かせたし、今後も成長し続けることが十分可能だった。それを国際線参入という無謀な計画でチャラにしてしまった」

 業績悪化と違約金問題で今や進退窮まった同社に残された最後の武器が、この羽田空港発着枠。これを駆使して八方ふさがりからいかに脱却するのか。「航空業界の喧嘩師」との異名を持つ西久保氏の手腕に注目が集まっている。
(文=田沢良彦/経済ジャーナリスト)

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