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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏(11月20日)

カルディ、人気の秘密 独自サービスが起爆剤、女性&現場本位の店舗活性化で顧客引き寄せ

文=高井尚之/経済ジャーナリスト

●コーヒーサービスで売り上げ増加

 カルディをよく利用する人にはおなじみだが、同店は紙コップに入れたコーヒーを入り口で手渡す「コーヒーサービス」を実施している。下北沢店(現在は閉店)で始めた、このサービスが現在の発展を築いた起爆剤となった。店舗統括部長経験もある同店の元店長は、こう説明する。

「下北沢店は92年7月に3号店としてオープンさせました。私が店長を務めましたが、夏の盛りに開店したこともあり、1日の平均売上高は17万円と不振でした。そこでお客さまを呼び込むために始めたのがコーヒーサービスです。路面店の下北沢店には2階もありますが、コーヒーを渡したお客さまは、それを片手に2階に足を運んでくださるようになりました。商品を取ってレジに直行するお客さまは減り、店での滞留時間も売り上げもアップしました。開店2カ月後の9月には、平均売上高は40万円にまで伸びたのです」

 そして消費者心理を巧みにくすぐった、この成功体験を、各店舗に水平展開していったのだ。品揃えが拡大した今でも、カルディの基本はコーヒー豆だという。店名には「コーヒーをもっと気軽に飲んでほしい」との思いが込められ、コーヒー提供はその象徴となっている。社内では「コーヒーサービスが一人前になれば、ほかの仕事でも一人前になれる」との共通認識がある。

 ちなみにコーヒーサービスで手渡されるのは、カルディオリジナル銘柄の「マイルドカルディ」で、コーヒーミルクと砂糖の量も決まっている。同商品が配られる理由は「クセがなく、誰にでも好まれる味だから」だという。

●女性の感性で女性客の心をつかむ

 そんなカルディの店舗スタッフは基本的に全員女性で、全従業員の98%が女性だという。それは、食材に興味を持つのは圧倒的に女性が多いからだ。最近は男性客の姿も見かけるが、大半は女性客で、特に若い世代は、雑貨が人気の書店「ヴィレッジヴァンガード」と同じように、「雑貨を探す」感覚で同店を利用する人も多いようだ。

 現在の主力商品であるワインも、お客からの要望で始めた。関連会社のオーバーシーズがイタリアワインなど各国のワインを輸入し、それをカルディ店舗で販売している。ワインを取り扱うようにすると、それに合う食材も必要となり、チーズや生ハムなどの品揃えも充実させた。「ワインを手がけたことで客単価も上がり、食材の幅も広がりました」と同社は語る。

 また、頻繁に店頭や店内の陳列を変えるのも持ち味だ。これは生鮮食品に比べて季節感の乏しい加工食品を活性化すること、意外な食品に出会う「宝探し感覚」を提供することの2つの狙いある。当然ながら、これらの作業も女性スタッフが行う。にぎわいを打ち出すために週単位で変えて、イベントの先取りも重視。今では多くの小売店が手がける方法だが、昔から11月からクリスマス、年が明けたらバレンタイン、早春にはお花見、秋にはハロウィンにちなむ商品を集め、季節を先取りして店頭に変化をつけてきた。

 コーヒー業界に詳しい経営コンサルタントは、「面白いのは、本社のトップダウンではなく、女性店長に仕入れを任せてきた点だ。店長が『これは面白そう』と感じる食材を仕入れ、販売している。女性の感性で品揃えを充実させて、売り上げ拡大を果たした」と解説する。

 流通業界を取材すると、よく「もうチラシ広告の時代ではない」との話を耳にする。確かに、現在の消費者は「ロールバック(長期間の安売り)」は好まない。毎日変わる売り場を楽しみ、その日の目玉商品を買うことで、買い物上手な自分を秘かに誇りに思うのだろう。その意味で、カルディの手法は「チラシ広告感覚」だ。競合の多い中にあって、今のところ顧客ニーズをつかんでいるといえるだろう。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト)

●高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント) 
1962年生まれ。(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に10月に発売された『カフェと日本人』(講談社現代新書)がある。これ以外に『「解」は己の中にあり』(講談社)、『セシルマクビー 感性の方程式』(日本実業出版社)など、著書多数。
E-Mail:takai.n.k2@gmail.com

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