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雑誌不況、地獄の季節へ ビジネス誌部数激減、「スクープ」から「身の回り」の時代に

文=長田貴仁/神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー、岡山商科大学教授
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 かつて、「日経ビジネス」「東洋経済」「ダイヤモンド」「エコノミスト」などのジャーナリズム志向が強い老舗ビジネス誌は、「あんな人の欲をくすぐる恥ずかしい企画を堂々とよくやるよ」と揶揄し、低く見ていた。実際、「プレジデント」以外のビジネス誌は、編集部がスタッフライター(社員記者)を抱えており、彼らが取材現場を這いずり回り、最新・スクープ情報を収集する。それをもとに企画し、自ら記事を書く。彼らはいずれも優秀な人材である。例えば、「東洋経済」には、「会社四季報」の取材・執筆も兼ねていることから高い取材能力に加えてアナリストのように企業(財務)分析を得意とする記者が多数いる。このような秀才たちによりつくられた「賢い雑誌」の部数が少ないのは、国事を動かす経済・経営ものよりも、近視眼的な視点から「生活」を考える日本人ビジネスパーソンが増えてきた世相を反映している。

 一方、「プレジデント」編集部には、いわゆる「業界担当記者」はいない。執筆をほとんど外部の人に依頼している、いわゆる「編集者雑誌」である。自動車や電機、金融といった主要業界の記者会見には、企業から案内が来るので編集者は顔を出しているが、上記4誌や新聞記者、アナリストのように積極的に突っ込んだ質問をしたり、それをベースに詳しい解説記事を書くような人は、現在の「プレジデント」編集部にはいない。それでもよし、とされる職場文化が同編集部だけでなく編集者雑誌にはある。

 情報色が強い内容であれば、フリーランスの誰が書こうと、結果良ければすべてよしなのである。編集者雑誌では、いかに多くの部数を獲得する企画を発案するかが編集部員のミッションであり、昼夜を問わず額に汗して飛び回り取材をしスクープ記事を書いたところで、あまり高い社内評価は得られない。当然、そのような方向へ編集部員のモチベーションは高まらない。一昔前は、このような組織であっても、スタッフライター制の雑誌に対抗できる記事を自ら書く正社員の「編集記者」が存在したが、現在は業務委託契約により雇用されている週刊誌記者経験者が、情報色ものを時々書いている程度だ。

 マスコミで「取材」と言えば、記者がキーパーソンにインタビューするだけでなく、自らさまざまなルートに接触し裏をとる。ところが、「プレジデント」のような編集者雑誌では、「取材」といえば外部の執筆者に書いてもらうためのデータ収集であることが多い。社長だけでなく、サラリーマンにインビューする際も、フリーランスのジャーナリストやライターと同席し、補足的に聞くだけというケースがほとんど。

 企業文化とは恐ろしいもので、ある言葉が外部と内部ではまったく違う意味で使われていることがある。プレジデント社生え抜きか、異業種から転職してきてジャーナリズム(記者)経験のない人は、執筆者と一緒に飛び回っていることを「取材」と称する。しかし、他の4ビジネス誌や新聞記者にとって「取材」とは、自ら記事を書くための情報収集を意味している。まさに似て非なるものである。

 編集スタッフの感覚も異なる。「プレジデント」編集部の女性デスクのフェイスブックを見ると、「今回はかなりデザインに力を入れました」と書いている。もっとも本人がデザインしたわけではなく、社外のデザイナーに「こんな感じに仕上げてほしいのですが」と依頼したことを意味している。これは、彼女にとっては誇るべき大仕事なのである。まず、スタッフライター制の雑誌編集部では、デザインに関する話題が出たとしても、フェイスブックで世間に向けて強調したりはしないだろう。なぜなら、それは編集の主たる仕事ではなく、外部のデザイナーにアウトソーシングする従の仕事であると考えているからだ。

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