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ルディー和子「マーケティングの深層と真相」(1月7日)

イオン、楽天…自社経済圏への顧客囲い込み戦争 新決済サービス続出、クレカ終焉か

文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学教授

●小売業者の金融サービスは諸刃の剣?

 さて、ウォルマートの話に戻そう。米国小売業や外食産業は、ウォルマートが中心となりマーチャント・カスタマー・エクスチェンジという団体を設立し、15年から独自のスマホ決済サービス「カレントC」を開始しようとしている。団体メンバーの中には、Apple Payによる支払いを拒否する店舗があり、「客のことを考えているのか」などと消費者から批判されている。カレントCの場合は、クレジットカードではなくデビットカードを使い、アプリでQRコードを表示して既存のPOSレジで決済できる。これがあればカードリーダー専用端末も不要で、クレジットカードに比べて手数料が安い。当然のことながら、企業は利用者が識別できるショッピング情報を獲得できる。

 米国では、クレジットカードの手数料が高すぎるとして店舗側が集団訴訟を起こす例もあり、カレントCには多くの期待が寄せられている。その意味で、アメリカでは新しい決済サービスは、銀行対小売業・外食産業といった構図になっている。

 ウォルマートは14年、一度挫折した金融事業に対して積極的に動き始めた。例えば、同社が米国全土に展開している4200店舗内で客が割安に送金できるサービスを4月に始めた。次いで、地方銀行と提携してスマホで利用できる、デビットカードにひも付けされた預金商品を発売している。

 歴史的に見ても、小売業が金融サービスをグループ内に抱えたいと願うようになるのは自然のなりゆきだ。前述したように、支払いに他社のカードを使われて手数料を払っていては利益率が落ちる。また、購買客を決済手段で囲い込めれば、自動車保険など他の金融商品の販売にも容易に展開できる。

 利益率が非常に低い小売業に従事していると、固定費が小さく利益率の高い金融サービスが魅力的に見えるようだ。米国でいえば、1970年代から80年代にかけて世界一の小売業だったシアーズという会社は、銀行、保険、証券会社まで傘下に収め、当時でいうところのコングロマリット(複合企業)となった。最近の例では、英国のスーパーチェーン、テスコも同じような道を歩んでいる。

 シアーズは本業の小売業が低迷するとともに、客数が減って金融サービスもうまくいかなくなり、結果的には、すべての金融サービス子会社を売却することになった。その後、回復する気配は見られず、本業の小売業はいまだに低迷したままだ。テスコも最近になって本業の売り上げ低迷、それに関連して不正経理の疑いも出てきて、株価が1年間で50%も下がっている。今では、本業を盛り返す資金を捻出するために、傘下のテスコ銀行を手放すのではないかとウワサされている。

 こういった歴史を振り返ると、本業の顧客をベースとして金融サービスに手を広げた企業は、本業を無視したわけではないだろうが、努力を怠ってしまう傾向があるようだ。コツコツ努力して1%や2%の利益率を上げるのを、無意識のうちにバカらしく思うようになってしまうのか、はたまた本業の売り上げが落ちても、金融サービスからの利益を当てにしてしまって危機意識がすぐには出てこないのかもしれない。
  
「XX経済圏」を構築しようとしている企業は、そういった落とし穴に落ちないよう気をつけるべきであろう。
(文=ルディー和子/マーケティング評論家、立命館大学教授)

ルディー和子/マーケティング評論家

ルディー和子/マーケティング評論家

早稲田大学商学学術院客員教授。
国際基督教大学卒業後、結婚・渡米を経て帰国、
米化粧品会社のエスティ ローダー社で働きながら
上智大学国際部大学院経営経済修士課程修了。
エスティ ローダー社ではマーケティングマネジャー、
出版社タイム・インク/タイムライフブックス社での
ダイレクトマーケティング本部長を経て、
マーケティング・コンサルタントとして独立、
自身の会社ウィトン・アクトンを設立
ルディー和子オフィシャルブログ

Twitter:@shouhigaku

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