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朝日、優れた吉田調書報道取り消しという愚行 記者の声を封殺し、権力にすり寄る

文=大石泰彦/青山学院大学法学部教授
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●権力にすり寄る朝日

 慰安婦報道のうち、文筆家の吉田清治が日本軍による強制連行を告白した「吉田証言」報道は、虚報性が高いと思う。しかし、吉田調書報道が虚報でないことは明白であり、百歩譲ってもそれは勇み足の誤報である。むしろそれは、日本という国の体制の根幹に存在する暗部に肉薄する、まれに見る優れた調査報道であった。しかし、それゆえにこそ――同じく権力の核心に迫った、かつての沖縄密約報道が徹底的に弾圧されたように――原発再稼働をもくろむ政治・社会権力は、これに捏造のレッテルを貼りつけ、抹殺したかったのであろう。それは、この国でこれまでにも繰り返されてきたことであり、今さら驚かないが、朝日の内部の何者かがこれに呼応し、味噌も糞も一緒にすることで事態をごまかし、同紙が権力者以外は誰も望まない記事の取り消しという“自殺”に至ったことは驚きであり、本当に残念である。

 14年11月9日付日刊ゲンダイの連載記事『お笑い朝日新聞 まだ炎上中/井上久男<第7回>前代未聞 誤報と決めつけられた記者が提訴も』では、「『吉田調書』報道の中心となった記者2人」が、「(朝日の)第三者委員会の『報道と人権委員会』に対して、誤報と決めつけられてしまったことにより、人権や名誉が傷つけられたとして審理を申し立てて」いると伝えている。しかし、11月13日付朝日新聞紙面に発表された『朝日新聞社「吉田調書」報道 報道と人権委員会(PRC)の見解全文』を見ても、この申し立てについては触れられていないし、またそれだけではなく、筆者の見る範囲では、朝日は紙面では一切この現場記者の主張に言及していない(他の新聞でも見かけない)。また、「吉田調書は誤報ではなく、事故当時の状況はまぎれもない『撤退』であった」とする、原発問題を調査する弁護士グループの主張についても、朝日は一顧だにしていない。

 自らを擁護する声を無視して、朝日は何にすり寄ろうとしているのか。

 15年1月、朝日は「信頼回復と再生のための行動計画」を発表し、その中で「調査報道の充実」「多様な言論の尊重」などの方針を打ち出している。しかし、その前に上層部と「何者か」によって仕組まれた「吉田調書取り消し事件」の全貌が明らかにされなければ、「行動計画」に盛り込まれた美辞のすべてが空しく映る。
(文=大石泰彦/青山学院大学法学部教授)

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