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ブラック企業アナリスト・新田龍「あの企業の裏側」(1月29日)

若者を食い物にする労働マルチ 甘い言葉で誘い、違法な低賃金・長時間労働

文=新田 龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト

 カートに商品を詰めて、担当エリアをローラー作戦でしらみつぶしに回って販売していく。1日中販売した後、17~18時頃にオフィスに戻る。販売分の売り上げを精算し、ミーティングを経て、だいたい21時頃に業務終了となる。

 販売金額は商材やエリアにもよるが、経験者の話によると、1日当たり数千~1万円程度というレベルだ。そこから商品代等を差し引き、日給は3000円も残れば御の字というのが実態である。もちろん、販売できなければ日給はゼロになる。

 そういった条件にもかかわらず、その仕事を続けられるのは、「いつかは月収100万円!」と信じて努力するからであろう。

 マルチ商法の場合は、「その商品のユーザーとなり、さらには拡販してくれる売り子を自分の配下に多くそろえる」ことがミッションとなる。「自らがネットワークビジネスに参画している」という意識を持って関与しているケースがほとんどだろう。

 一方、労働マルチの場合は「自分がマルチに加担している」「マルチの片棒を担いでいる」という自覚がない、あるいは気づいていないというケースも多いようだ。

 なぜなら、労働マルチの企業側は、当然ながら「うちは労働マルチをやっています」とは言わないからである。あたかも普通の会社であるかのように存在しており、求職者も普通の会社という認識で入ってくる。入社後も、粛々と個人向けの物販をこなしていくのみで、理不尽なパワハラがあるわけでもないため、仮に疑問を抱くことがあるとしても、「長い時間働いているわりには給料が少ないかな…」と感じる程度かもしれない。

 しかし、「長時間働いても稼げない」という状況は、確実に働いている人の心身を蝕んでいく。さらにその裏側では、努力して獲得した売上金の多くが上層部に吸い上げられていくのだ。その点が、マルチの名が冠されるゆえんである。

 そんな、いつまでたっても報われない労働に貴重な時間を費やすわけにはいかない。では、どのようにすれば労働マルチを見抜くことができるのだろうか。

●労働マルチの特徴と見抜き方

 労働マルチを行っている企業は「厳密には法律違反に当たるグレーゾーンの部分を巧妙に隠して、対外的には良い印象をアピールして求人している」という点でブラック企業と共通している。したがって、特徴や見抜き方については、ブラック企業のそれと同じだ。特徴的なのは、以下のような点である。

(1)会社概要や職務内容の説明に「あいまいな横文字」が多用されている

 労働マルチ業界の代表的な企業である「N社」のウェブサイトを見てみると、同社の事業や業務内容について、以下のように説明されている。

 ・セールスマーケティングのプロが、商品やサービスを毎日10万人のお客様へ直接販売
 ・アカウントマネージャーがクライアント向けキャンペーン、販売戦略を企画
 ・国際感覚にあふれたスタッフと一緒に、商材を探したり、サービスの企画を直接お客様へ提供する仕事

 横文字が多用されていて一見華やかだが、実際は以下のようなことを格好よく言い換えているにすぎない。

 ・当社と契約している販売員が、あなたの会社の商品やサービスを「飛び込み販売」します
 ・リーダーが販売員に対して、当日回るルートを指示します
 ・雑貨類の飛び込み・新規開拓・訪問販売の仕事です

 実際は「青果の訪問販売」「カートに載せた雑貨を通行人に売り歩く」といった仕事だが、それを正直に喧伝しても多くの求職者が集まる見込みは薄い。だから「マーケティング」「商品プロモーションの仕事」などと言い換えて、クリエイティブな仕事に見せているのである。

 ちなみに、なぜ労働マルチが「プロモーションの仕事」と謳えるのかというと、

 「自社ブランドでは売れないような、知名度がない会社や商品力がない会社の商品を、気合で無理やり売る」=「販売促進」=「プロモーション」

という定義になっているからだ。あいまいな横文字でクリエイティブな印象を抱かせ、実際は不人気かつ過酷な仕事に就かせる。まさに、ブラック企業のやり口そのものである。

新田龍/働き方改革総合研究所株式会社代表取締役

新田龍/働き方改革総合研究所株式会社代表取締役

労働環境改善による企業価値向上支援、ビジネスと労務関連のこじれたトラブル解決支援、炎上予防とレピュテーション改善支援を手がける。労働問題・パワハラ・クビ・炎上トラブル解決の専門家。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。著書25冊。

Twitter:@nittaryo

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