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ブラック企業アナリスト・新田龍「あの企業の裏側」(1月29日)

若者を食い物にする労働マルチ 甘い言葉で誘い、違法な低賃金・長時間労働

文=新田 龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト
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 正社員やアルバイト契約の場合、従業員は「労働者」として扱われ、最低賃金以上の給料を支払う必要が出てくる。さらに各種社会保険の対象になるなど、企業側にとっては本人に支払う給料以外の諸々の負担が発生することになる。
しかし、業務委託であればその必要がなく、完全出来高払いが可能になる。搾取する側にとっては、これほど好都合な契約はないのだ。

 しかし、人員募集において最初から「業務委託契約」の選択肢しかない場合、リスクを感じて応募は集まりにくい。そのため、条件のいい正社員やアルバイトの「見せかけの求人」を掲げて人を集めた上で「実際に採用するのは業務委託だけ」というカラクリを用いるのだ。

 しかも、無理に業務委託契約を強いるのではなく、「採用時にきちんと説明し、本人の意思で業務委託契約を選んだ」と言い訳できるようなかたちにしているのが巧妙なところだ。そういう状況にしておけば、違法にはならないのである。

 ただし厳密には、業務委託契約でも「実態的には労働者性が認められる」場合、業務受託者は業務委託者の労働者と判断され、労働基準法等が適用されることになる。

 業務委託社員か労働者かの判断基準は、どのようなものだろうか。以下は、一般的な業務委託の条件である。

 ・仕事の依頼や業務従事の指示を断ることができる
 ・仕事を進める上で、具体的な内容や方法の指示はない
 ・進捗状況の報告義務や勤務時間の管理はない
 ・代わりの者に業務を行わせることができる
 ・報酬が時間・日・月を単位とする労務ではなく、業務の成果に関して支払われている
 ・会社は機械、器具の負担はしていない
 ・機械等の負担をするため、報酬は他の一般社員よりも高い
 ・報酬に生活給的な要素はない
 ・他の会社の業務を行ってもよい

 労働マルチでは「集合時間、帰社時間が決まっている」「日々、業務内容についてミーティングがある」というのが一般的だが、これは上記の「進捗状況の報告義務や勤務時間の管理はない」という部分に実質的に反するので、明らかに労働者と判断されるポイントである。

 つまり、労働マルチの企業は長時間労働、最低賃金以下の低収入、社会保険未加入を強いて、若者に対してコストとリスクを押し付けようとする「労働基準法違反企業」ということになる。

●なぜ、そんな違法企業が存続しているのか?

 そういった、明らかに違法性がある企業がなぜ生きながらえているのか、疑問に思う人も多いかもしれない。その理由には、以下のようなものがある。

 ・そもそも、労働マルチという形態自体の社会的な認知度が低い
 ・労働法に詳しくない若者をターゲットにし、ポジティブなメッセージのみを繰り返しインプットするため、被害者自身に「被害者である」という認識が乏しい
 ・被害者であることに気づいても、対処法を知らないため泣き寝入りしてしまう(あるいは、ブラック企業の対応に時間や手間をかけるよりは、早く新しい会社で仕事を始めたいと思う)

 また、こんな見方もできるだろう。

 ・諸々の事情により就職が難しい人にとっては、労働マルチでさえも雇用の拠り所となっている
 ・労働マルチ企業の取引先(仕入先)である「自社に知名度も商品力もない企業」にとっては、月々の契約金も不要で、完全出来高で商品を売りさばいてくれるありがたい存在である

 たとえ労働マルチであっても、そこに価値を見いだす人がいる限り、息の根は止まらないのだ。

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