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日向咲嗣『「無知税」回避術 可処分所得が倍増するお金の常識と盲点』第9回

首都圏の超激安2LDKマンション、こんなにオトク?購入は100万台、賃貸は月3万台…

文=日向咲嗣/フリーライター
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 1月8日付当サイト記事『100万円台でマンションが買える?すさまじい不動産相場崩壊、住宅はただの粗大ゴミに』で、首都圏でも激安価格で売りに出されている中古マンションが増えていると紹介した。同記事で激安マンションの一例として紹介したのが、千葉県内にある築40年超の2LDK公団マンションである。価格は120万円で、住宅ローン支払い例として「月々3543円」とチラシに記載されているのを見て、「携帯電話の料金よりも安い」と驚かれた人も多いことだろう。しかし、一方で、「築40年の古いマンションを買うなんてとんでもない」と思われた人もいるに違いない。

 そこで今回は、このような公団マンションを購入することがオトクなのかどうか、ポイントを絞って検証してみたい。

 まず立地を見てみると、東京都心までのアクセスが最寄り駅から快速で約1時間と決して悪くはないものの、その最寄り駅まで「バス7分」という点が少し気になる。近辺に商業施設があるかなどの利便性や、行政サービスの質が確保されているか、確認すべき項目はいくつかある。

 しかし、なんといっても築40年超というヴィンテージ物件であることから、最大の不安要素は耐震性だろう。目安といわれる1981年の耐震基準すらクリアしていない可能性がある。ひとたび大きな地震が起きれば、建物全体に大きな損傷を受けたり、場合によっては倒壊するリスクすらはらんでいる。加えてエレベータのない5階建ての5階となれば、毎日足腰のトレーニングをする覚悟でもなければ容易には購入を決断できないだろう。

 同じ団地内でも1~3階までは、400~500万円で売り出されている物件が多いのに対して、4階以上の物件は、だいたい200~300万円で売り出されているのが現状だ。そうした中で早期に売却したければ、さらに安くする必要があり、その結果100万円台という激安価格になってしまったとみられる。

公団のデメリット

 では、それらデメリットをひとつずつ検証してみよう。

 千葉県のどこか辺鄙な町の物件ではないかと思われたかもしれないが、この物件の所在地は千葉市内だ。人口96万人を誇る千葉市は、県庁所在地で政令指定都市でもある。そのうえ、物件は総戸数5500戸を超える全国でも有数のマンモス団地内にある。団地は今後急速に住民の高齢化が進んでいく恐れはあるものの、今のところ団地内の商店街は存続しており、周辺地域には大型ショッピングセンターがいくつもある。

 次に、建物の古さだ。耐震基準を満たしていないために、大地震に耐え得るのかというのが最大の不安要素だが、その点は意外にも問題にはならないだろう。

 なぜなら、2011年の東日本大震災の際、都市再生機構(UR)が開発した団地に関して、耐震基準を満たしている鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)ラーメン構造の高層棟の一部に被害が出た一方、古い低層の鉄筋コンクリート(RC)構造の建物には、ほとんど被害はなかったという報告があるからである(「2011年東北地方太平洋沖地震によるUR賃貸住宅の構造被害と今後の知見」より)。

 もちろん、個別に手抜き工事のリスクが潜んでいるかもしれず、さらに大きな地震が来れば倒壊する恐れがないとはいえないが、それはどのような建物でもいえることであり、さらにコストを極限まで切りつめて建築された民間アパートなどは、もっと危険だ。

 エレベータがない5階という点についても、少し高台に建っている2~3階のアパートと同じと考えれば、見方は大きく違ってくる。もちろん、高齢になると体力的に厳しいには違いないが、最近はネットスーパー等、都市部には玄関前まで宅配してくれるサービスが目白押しのため、それらを活用すれば思ったほどの不便はないかもしれない。

 しかし、そうはいっても築40年が経過しているので、今後は修繕積立金が極端に高くなったり、それがために空き家だらけになって団地全体がスラム化していく不安は残る。実際に近い将来そうなる可能性は、決して低くない。

 老朽化したマンションを建て替えようとしても、住民の5分の4以上の同意が必要なため、一筋縄ではいかないとよく言われる。ただ、それでも建ぺい率・容積率ともに目いっぱいに建てている民間の高層マンションに比べるとマシだろう。公団が高度成長期に建設した低層団地は土地の持ち分が比較的多いため、いざとなれば持ち分を開発業者に売却して出ていくこともできる。あるいは取り壊し費用と相殺することも可能だ。リフォーム費用も含めて総額200万円前後で買える物件であれば、もし最悪買い手がつかないような事態になったとしても、車一台乗り潰したと思えば、あきらめがつく範囲内ではないか。

 以上のように、諸々のデメリットを考慮しても100万円台という価格は十分に安いといえるのではないだろうか。

賃貸との比較

 さて最後に、この物件を人に貸した場合、いくらの家賃を取れるか計算してみる。キャピタルゲインが期待できない時代の資産価値は、投資物件としての収益性が重視されるわけだが、この点こそがこの物件の最大のアキレス腱なのだ。

 実は同じ団地内に、ほぼ同じ向き・間取りのUR賃貸物件が多数散在しており、その最安家賃は、なんと4万円なのである。UR物件ゆえに、初期費用は敷金のみ。礼金、更新料、仲介手数料、保証料すべてなしの上、該当物件には1カ月のフリーレントまでついている。

 首都圏でもいち早く人口減少が始まった千葉県では、賃貸住宅オーナー間の激しい価格競争がすでに始まっていて、千葉市内の60平米超のファミリー向けマンションの最安家賃が4万円台に突入するという異常事態が起きているのだ。

 かつて殿様商売だったUR賃貸が、いまやそうした激しい競争に打ち勝つべく対策を講じているため、驚くべき家賃を実現させている。

 例えば、29歳以下の人が名義人の場合、家賃が最大で1万円引きになる「U29割。」(ただし更新なしの定期借家3年契約)や、子育て世帯には最大6年間にわたって家賃を2割減額してくれる「子育て割。」など、携帯電話と見間違うような割引プランが用意されている。

実際に「U29割。」が適用されると、千葉市内の45平米3Kで5階の同種物件が家賃共益費込みで3万6400円まで下がる。「子育て割。」が適用された場合も、団地内同種物件で、共益費込みで3万5900円までダウンする。

 マンションを購入した場合、管理費と修繕積立金を毎月2万円程度、固定資産税を年間5万円前後負担しなければならない。そうであれば、3万円台で同条件の部屋を借りたほうがオトクなのは、もはやあらためて言うまでもない。年間10万円程度の収益を得るために、200万円近くも元本保証が一切ないところに投資するのは、到底割に合わない。

 というわけで、この損得対決、賃貸の圧勝というのが結論である。

 賃貸住宅の「激安台風」は、まだ首都ドーナッツ圏の外周付近で発生したばかりだが、今後は、勢力を維持したまま、都心部のドーナッツ中心へと少しずつ接近して猛威を振るうことが予想される。大家も店子も、その時のために今から備えておくべきだろう。
(文=日向咲嗣/フリーライター)

日向咲嗣/ジャーナリスト

日向咲嗣/ジャーナリスト

1959年、愛媛県生まれ。大学卒業後、新聞社・編集プロダクションを経てフリーに。「転職」「独立」「失業」問題など職業生活全般をテーマに著作多数。2015年から図書館の民間委託問題についてのレポートを始め、その詳細な取材ブロセスはブログ『ほぼ月刊ツタヤ図書館』でも随時発表している。2018年「貧困ジャーナリズム賞」受賞。

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