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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏(2月12日)

「命の缶詰」工場、震災直撃から奇跡の復活…驚異の行動力と多角化、何千人の支援

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
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 現在の同社はリスク回避のため、「冷蔵工場」と「缶詰工場」に分けて製造する。冷蔵工場は流失した元の工場と同じ場所である石巻市魚町1丁目に再建、缶詰工場は内陸部にある美里町に分散建設した。隆之氏はプロジェクトの代表理事を退任し、自社工場の生産業務に注力している。

 だが、2工場の建設に同社は約44億円を投資した。投資額のうち、冷蔵工場は国の「中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業」によって4分の3、缶詰工場は復興庁の補助金によって8分の7がそれぞれ助成されたが、残りは自己負担したため多額の借金を背負った。

●「被災地への関心薄」は感じるが、被災者の立場に甘えない

 まもなく震災から4年。「被災地への関心が薄れたと思いますか?」と聞くと、木村氏はこう答えた。「それは感じます。もう復興したと考えている人もいるでしょう。しかし我々は被災者の立場に甘えないで、商品力で勝負したいです」

 さらに、こう続ける。「当社の強みは『金華さば』や『鯨大和煮』など、差別化できる自社ブランドを持っていることです。いい商品を作り続けるとともに情報発信を強化して、震災でご縁が生まれたみなさん以外にも、本物のおいしい味を伝えていきたい」

 三陸の海にも、かなり魚介類が戻ってきたという。「震災の影響で2年ほど、底引き網を使うトロール船が操業せず、結果的に海を休ませることができました」(木村氏)

「都合何千人でしょうか。たくさんのみなさんに助けていただきました」と話す木村氏には、震災後も不幸が襲った。まだ50代だった最愛の妻を病気で亡くし、昨年は自身も持病の手術を受けた。それでも前向きで、手術後の体調はよくなったと笑顔を浮かべる。立命館大学在学時代はボート部に所属して猛練習を重ね、インカレ優勝も果たした同氏。スポーツマンとしての基礎体力が、困難に立ち向かう気概を支えているのだろうか。

 一方、明るい話題もある。コンビニエンスストアチェーンのセブン-イレブンは宮城県内の店舗限定で、今年から同社の缶詰の販売をスタートさせる。バイヤーが食べ比べ、三陸産の味に感動した結果、仕入れ先を変えたのだ。

 また、鯨をイメージした外観の木の屋石巻水産の缶詰工場ではカフェも設置。16年に市内で開業予定の「石巻マルシェ」には、鯨料理を提供するレストランを出店させる。震災直後に期間限定で営業した「木の屋カフェ」で培ったノウハウも生かせそうだという。

 看板商品の「金華さば」は1缶300~400円台、「鯨大和煮」は同500円台で買うことができる。手のひらに載る缶詰には、石巻の再生と木の屋石巻水産の気概も詰まっている。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

●高井 尚之(たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント) 
1962年生まれ。(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に、10月に発売された『カフェと日本人』(講談社現代新書)がある。これ以外に『「解」は己の中にあり』(講談社)、『セシルマクビー 感性の方程式』(日本実業出版社)など、著書多数。
E-Mail:takai.n.k2@gmail.com

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