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ワーク・ライフ・ハピネス 第2回

倒産危機から町工場のヒーローへ タブー破りな経営で職人の意識改革、画期的発明続々

文=鈴木領一/ビジネス・コーチ、ビジネス・プロデューサー
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倒産危機から町工場のヒーローへ タブー破りな経営で職人の意識改革、画期的発明続々の画像3浜野製作所外観

 そして会社の外観の理由についても、その経緯をこう話す。

「かつて採用活動をした時、その当時は会社も小さく、人材募集に応募してくれる人もほとんどなかったのですが、唯一応募してくれた人が会社の前で立ち止まり、工場を覗き込み、そのまま帰ってしまったのです。楽しくなさそうに見えたのでしょう。その時、ワクワクが伝わる会社を作ろうと決めたのです」

 今や外観だけでなく仕事でもワクワクを作り出している浜野製作所だが、浜野氏が社長を受け継いだのは1993年、28歳の時だった。初代社長の父親が、がんのために亡くなったのが契機だった。経理をしていた母親と職人2人、合計4人のスタートだった。

 下請けで細々と事業を続けていては何も変わらないと、00年に新しい板金加工工場を作ろうと決断。借金をして新工場を建て始めた最中の6月、近隣で火事が発生し、工場が全焼してしまった。社長を受け継いで数年で倒産の危機が訪れたのだ。

 人生最大の危機で浜野氏を支えたのは、現常務取締役の金岡裕之氏だった。窮状を知った金岡氏が手伝いに来てくれたのだ。満足に給料も払えなかったが、金岡氏は「俺は金のために来ているわけじゃない」と語り、浜野氏と二人三脚で会社の再建に全力を挙げた。粘り強く営業を重ねることで、納期の短い「短納期」の注文に活路を見いだし、経営も少しずつ軌道に乗っていくようになった。

●学生との交流が職人に意識改革をもたらす

 それでも経営は安泰といえる状況ではなく、従来の町工場のスタイルからの脱却を模索していた浜野氏に大きな転機が訪れた。一橋大学教授であった関満博氏(現一橋大学名誉教授)との出会いである。ある勉強会で関氏と出会い親しくなると、関氏は自身のゼミ生を浜野製作所に連れてくるようになった。職人が学生と交流する様子を見て、浜野氏は閃いたという。

「職人さんたちは自分の世界に入り込み、自分の技術を教えたくない人が多いのです。よく“背中を見ろ”といわれますが、それほど伝え方がうまくないともいえます。しかし学生に一生懸命伝ようとしている姿を見ていると、会社が変わるきっかけになると感じたため、学生たちに浜野製作所でのインターンシップを提案しました」

 浜野氏の提案を受けた学生たちは、他の大学の学生も連れてきて、インターンシップ学生は数十名の規模にもなったという。その結果、職人に大きな変化が訪れるようになる。それまで自分の世界に入り込んでいた職人が、何も知らない学生に教えることで伝える技術が向上し、技能の伝承に役立つようになった。いわば見えなかった技術の“見える化”が実現したのだ。

 このインターンシップがきっかけとなり、産学連携への道筋が見え始めた。そして冒頭で紹介した産学連携による「HOKUSAI」や「江戸っ子1号」の開発につながった。学生という外部の新しい風によって会社を変えようとする浜野氏の大胆な決断が、浜野製作所を大きな飛躍に導いたといえる。

「新しいことに取り組もうとすると、『うちのような会社では無理だ』と以前は考えがちでした。しかし、産学連携プロジェクトの成功によって、『うちのような会社でもできる』という意識改革をもたらしました」

 さらにワクワクした会社にさせるべく、子供に工作機械を体験してもらうための「アウトオブキッザニア」や、個人のものづくりから企業の製品開発まで支援する「ガレージスミダ」というプロジェクトもスタートさせた。いずれも自社の施設を一般に開放する企画だ。これらによって外部との交流が増えたことで職人たちの意識に変化が起き、さらにコミュニケーション能力が向上した。

 このほか、浜野氏は会社を強くするための施策を次々に実現していった。職人の技術を共有すべく、従来の町工場の概念では考えられない「ジョブローテーション」も導入した。通常、溶接の職人ならば溶接一筋と長年同じ仕事をする「単能工」がほとんどだ。いつの間にか職人の仕事は誰も侵すことができない聖域となり、必然的に仕事が属人的となり秘匿されていく。しかし、それでは職人がいなくなると納期が守れなくなり、経営にも支障を与えかねない。

 そこで浜野製作所では、これまでのタブーを打ち破り、週替わりのジョブローテーションを実施。お互いが技術を共有し、フォローし合える体制を整えることに成功した。これもインターンシップから培ったコミュニケーション能力の向上の賜物といえるだろう。

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