当面の対象は楽天の旅行予約サイト「楽天トラベル」加盟のホテル・旅館約2万7000社。だがこれは試運転のようなもの。来年の電力小売完全自由化後は「国内約8700万人の楽天会員の家庭に向け、同サービスを展開する」(同社関係者)との壮大な計画で、電力小売事業の覇権獲得を目指している。「電力部分供給の購入代理サービス」を行う同社は新電力ではないので、インバランス料金支払いのリスクを負わずに電力小売事業を展開できる。濡れ手で粟のようなビジネスモデルだが、楽天はこれで喜んでばかりいられない。

●需給バランスの精度

 インバランス料金の最小化は新電力会社にとって最大の経営課題だが、完全自由化以降はこれが一層深刻化すると予想されている。その背景には、原発停止が続く中でのメガソーラー急増がある。原発停止で電源が不足し、日本卸電力取引所の取引価格平均は11年3月の東日本大震災発災前の10円/kWh未満から発災後は15円/kWh前後に急騰・高止まりしている。このため、日本卸電力取引所で電力を調達するより、固定価格買取制度に守られたメガソーラーの電力を調達するほうが安くなっており、新電力にとってはメガソーラーが有力な電力調達先になっている。

 ところが、出力が不安定なメガソーラーの電力を調達して「30分同時同量」を達成するのが容易ではない。新電力にとってこれまでの需給計画3%のズレ発生は、大半が当日の発電量不足が原因だった。需給計画のズレを3%以内に収めるためには、天気予報を利用した空調の負荷予測とメガソーラーの発電量予測の精度を上げる必要がある。だが両方とも不確実な要素があまりにも多いため、精度を上げるのが難しく、「30分同時同量」達成の難易度は火力電源が主だった東日本大震災発災前より高くなっている。

 したがって、楽天は「新電力に非ず」といえども「30分同時同量」の影響を間接的に受け、その影響は電力マネジメントサービスの「電力調達」や「電気料金最適化」の計画を狂わせる要因になる。

 完全自由化後は、新電力会社と大手電力会社が入り乱れた「電力戦国時代」に突入する。電力小売事業は「電気の品質で差別化」の要素がない。同業他社との差別化は「電気を安く売る」よりも「電力需給バランスの精度」が重要になる。これが低いと収益を確保できず、淘汰される側に回ることにもなる。

 ソフトバンクと楽天の電力小売事業覇権獲得に向けたビジネスモデルは対照的ながら、どちらが先に電力需給バランスの精度を上げるかで勝敗が決まってくる。エネルギー関係者の間では「IT業界のイノベータと呼ばれる両社が、精度向上に向けたどんなイノベーションを巻き起こすのか」と期待も高まっている。
(文=田沢良彦/経済ジャーナリスト)

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